化物伝・外伝〜リック死後〜

□その3
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三日後。
「エル君!」
妖の長が、ノエルと遊んでいるエルに声をかけた。
「お父さんとお母さんだよ!」
そう言った長の背後に、ラグナという名の柄の悪い男と、ジャネットという名の線の細い女がいた。
「あ、パパとママだぁ!」
エルが、エルには珍しいほどの歓喜の表情でラグナとジャネットに駆け寄る。一度だけつまずき、エルは二人に抱きついた。
「おう、久しぶりだな、エル」
「こんなに大きくなったのね、エル…」
二人もまたそれぞれに喜びの表情を浮かべ、エルを抱き止めた。
「うん…会いたかったよパパ、ママぁ…!」
あまりの歓喜から泣きじゃくるエル。
「すまなかったな、お前を置いて勝手に逝っちまってよ…」
「え、何のこと…?」
エルは知らないが、ラグナはある事情から自ら命を絶った人間である。だが、あくまでもエルは知らない。なので、
「いや、何でもないんだ。しかし、成長したな…」
そう言うだけにとどめ、ラグナは本当の事情を伏せることにした。
「良かったね、エル君!」
ノエルがエル達に声をかけるが、ノエルはラグナににらまれた。
「…んだぁ?このガキは…」
ノエルは少々驚いたが、無意識にラグナの実力を分析していた。
結論から述べると、リックよりやや弱い。だがこれはすなわち、化け物並の強さを持っているということだ。私じゃ太刀打ちできない、とノエルは思った。
「こら、ラグナ。まだ相手は女の子よ、やめてあげなさい?」
「お、おう。けどよ…」
けど、と言ったラグナもまた、ノエルの強さを本能でわかっていた。このガキには、本気でやり合えばどちらもただではすまないくらいの実力がある。
「けどもだってもありません。ごめんなさいは?」
しかし、最愛のジャネットにそう言われてはもはや言うべきことは一つしかなかった。
「わ、悪かったな」
ノエルは首を振ってから、ラグナに笑顔を向けてやった。気にしてないよ、という合図だ。
「この子はノエルちゃん。僕の大切な人だよぉ」
そう言われたノエルは顔を真っ赤にして恥ずかしがり、ラグナとジャネットは微笑んだ。
「そうか、彼女さんだったのか。それならうちの息子と仲良くしてやってくれよな」
「ええ、エルをよろしくお願いしますね」
ノエルはあたふたしながらも、うつむいて小さくうなずいた。
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