化物伝・外伝〜リック死後〜

□その3
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「ところでだ、せっかく久々に家族が揃ったんだし、何かうまいもんでも食わねえか?なあ、ジャネット、エル」
「ええ、でもあまり脂っこいものは…」
「いいじゃねえか、ピザ」
そんな会話を、エルはにこにこしながら見ていた。
「僕はなんでもいいよぉ」
「そうだな。じゃあ、ちょっくら買ってくる」
そう言って、ラグナは家を出た。

「…何か嫌な予感が…」
ジャネットはエルにも聞こえない声で呟いた。

しかし、そう言って出たはいいものの、財布の中身はさみしいものだった。
「はあ、貧乏はやだねえ」
そう言いながら、ラグナは軽い財布をぽんぽんとお手玉する。
「…そうだな、誰かに借りよう」
いいこと思いついた、とばかりに指を上に向けた。しかし、もとより返すつもりはない。ラグナは大悪党として名を馳せた男だ。いちいち返すようなみみっちいことはしたくない。
「とりあえず誰から借りようか…」
と、右を向いたとき、そこにいたのは老人だった。武器屋の店主のようだ。「リック武器店」という看板をしまっているところで、いかにも無防備そうだ。
「なあ、じいさん。金貸してくれよ」
声をかけると同時に背後に立つ。
「ねえよ。閑古鳥が鳴いてる武器屋に言う言葉じゃねえな。あと、」
そう言って武器屋の老人は背中越しに「殺気を放ってきた」。
「物騒なものはしまっとけ」
ラグナはその殺気に気圧され、それでも懐のダガーを突きつけた。
「いいから出せよ、ああ?ジジイ。死にてえのか?」
「もう死んでるよ」
そして、老人は振り向きざまにラグナの腕を振り払い、逆の手で掴んできた。…老人とは思えない握力だ。とはいえ、ラグナもまた、いくつもの修羅場をくぐり抜けてきた男である。痛みでダガーを取り落としてしまうような失態は犯さなかった。
「それでも構わねえ、痛い目見せてやらあ、ジジイ!!」
ラグナは空いてる手で老人の顔面を殴りつけようとした。しかし老人はその手を払って逆に頬を殴ってきた。よろめいたラグナの手を離し、老人は吐き捨てるように言う。
「リックだ。覚えとけ、ごろつき」
ラグナはかちんときた。
「ああ?」
鋭い声で威嚇しても、リックと名乗った老人は動じない。
「わからなかったか、ごろつき」
「俺はラグナだ!ごろつき呼ばわりするんじゃねえ!」
「知るか。ごろつきじゃなきゃコソ泥か強盗くらいか」
「てめえーっ!!」
ラグナは腰に下げていたショートソードを抜いた。
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