超短編集

□エイプリルフール
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4月1日である。
それぞれが一つ嘘を持ち寄り、楽しむ日として、クロスワールドにも「エイプリルフール」は浸透している。
「断酒するぞい」
切り出したのはガルドだった。
「おう、頑張れよ」
レッドがそれに受け答えする。
「おじちゃん、お酒飲まないのぉ?」
エルが真に受ける。
「お酒を飲まないのはいいことです。あなたがドワーフとはいえ、あの飲み方は体をいつ壊してもおかしくないです」
ティアも真に受けた。
「あ、あの、嘘なんじゃが」
ガルドが慌ててネタばらしに入るが、
「嘘なんですか?酒代が浮くと思ってたのに」
「…一日に何本も酒瓶を空けるからな、ガルドは。安心した俺がバカだった」
ビーナが、そしてネイサンが追いつめるものだから、ガルドは部屋の隅で縮こまっていじけてしまった。

「おお、やってるな」
そこにリックがやってきた。
「ようリック」
「おっすリック」
酒場の全員があいさつする。
「で、ちょっと頼みがあるんだが。ちょっと武術の訓練がしたいんだ、トンファー。使ったことなくてな、練習に協力してくれて、俺を負かせれば酒の一杯くらいおごるぞ」
きっと酒が嘘だ。だが、それでもリックに勝てれば爽快だろう。最強の冒険者として名高いリックだ。それを、練習中の武器で戦っているとはいえ倒せれば…あるいは、最強の称号が得られるかもしれない。
「俺っちがやるぜ!」
イングラムが名乗り出た。
「レフェリーは私が勤めよう」
ヘイズが公平なレフェリーを約束する。
「では両者見合って…時間制限は5分。試合開始!」
イングラムが突っ込んでいった。
リックは、
「トンファーキック!!」
蹴りを放つ。
ドゴォォォ!イングラムの鳩尾に深く靴底が埋まっていく。
「トンファーヘッドバット!!」
今度は頭突きだ。鼻柱に硬い頭がめり込む。もんどりうって倒れるイングラムに、リックは追撃する。
「トンファーボディプレス!!!」
とどめに押しつぶされ、イングラムは白目をむいた。
「勝負あり。ノックアウトだ」
意識がないのを確認して、ヘイズはリックの勝利を宣言した。
「手ごたえねえなあ。トンファーは練習中だと言っただろう」
起き上がって言うリック。全員一気に突っ込みを入れた。
「トンファー使ってねえじゃん!!!!!」
「そうだ、トンファーを使うと言うことが今日の嘘だ!」
そんな嘘に付き合わされてけちょんけちょんにされたイングラムはたまったものではない。

ウェルナーが震えつつ、二階から降りてきた。
「ようウェルナー…!?」
赤い液体で体の全面をべたべたにしたウェルナーは、青ざめた顔でぽつりとつぶやいた。
「…や、やっちゃった」
「な、何を…?」
「み、み、ミックス」
どやどやと二階へ上がるメンバー。リックだけが酒を飲み続けていた。

ミックスは部屋の真ん中で大の字に倒れていた。部屋のフローリング床には、べったりと赤い液体が広がっている。
「…こりゃひでえ」
「ああ、この量ではもう救えない…何があったかは知らないが、自首させよう」
「そうですね、至高神の騎士を呼んで、今すぐに!」
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