化物伝・外伝〜リック死後〜

□その1
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その後、リックは妖の長に促されるまま歩いた。
程なくして見えてきたのは、のどかな田園風景だった。
「ここがあなたの住む、私たちの天国。それとも、もっと都会の方がいい?」
妖の長はそう聞くが、リックは笑って首を振った。
「のどかなのも好きだ。まあ、リナとノエルが居れば一番だがな」
「そう、じゃあ私はそのためにもちょっと書類仕事をしてくるわ。天国も書類だらけよ、もう!」
肩をいからせてどこかへ歩く妖の長。その途中で振り返って、こう言った。
「あ、なにか現世に心残りがあるか考えておいてね」
リックは頷いてから、手を振って見送った。
「やあ、新入りさん」
見送るリックの背後から声がかかる。振り返ると、車椅子に乗った少年がにこやかな表情でそこに居た。
「君は?」
リックは目線を合わせるようにかがもうとして、粗末な義足のせいでよろけた。あわてて体勢を立て直し、片膝をつく。
「僕は助(たすく)。あなたは?」
「俺か?リックだ。よろしくな、助」
リックは握手をしようとして手を差し伸べ、そこで気づいた。和服のすそから覗いているべき助の両足がどこにも見当たらない。
「ああ、僕の足?」
気づかないうちにまじまじと見ていてしまったらしい。リックはすまなそうに頭をかく。
「気にしちゃいないよ、だってこれ生まれつきだよ」
「ああ、そうなのか。…答えたくなかったら言わなくていいが、辛くないか?」
その問いに、助は笑って首を振った。
「助け合えば、どんな障害だって辛くはないよ。人間は助け合うべきなんだから」
リックはそれを聞いて、幼い顔からは想像していなかったしっかりとした答えに少し驚いていたが、気を取り直して笑い、頷いた。
「そうだな。人間は助け合うべきだ。そこで頼みごとなんだが、この村を案内してくれないか」
「もちろん。僕が助けになるよ」
助の笑顔は、太陽のように明るかった。
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