化物伝・外伝〜リック死後〜

□その3
1ページ/9ページ

「リック!おめでとう!」
数日ぶりに妖の長がリックのもとに来た。何やらおめでたいことがあったらしいが、リックにとっては何らおめでたいことはなかった。
「ありがとうよ、店は大繁盛だ。閑古鳥でな」
リックの言うとおり、店の前はレウとリィズが助に遊んでもらっているのみである。
「あー…こりゃ失礼…って、そうじゃなくて!」
「じゃあなんだよ」
不機嫌そうに言うリックの耳を、何者かが引っ張った。その人物は、痛がるリックの引っ張られた耳に言う。
「せっかくいいこと教えてくれようとしてる人に対してその言い方は何かしらー…?」
「やめろリナ、頼む、悪かった、って、り、リナ!?」
声は、リックより早く天へと旅立ったリックの妻、リナ=アルフォードであった。耳を引っ張る強さも同じだった。
「そうよ、あたしよ。久しぶりね、リック!」
にっこりと笑うリナの背後を見ると、エルとノエルも居た。
「久しぶり、お父さん!」
「えへへ、久しぶりだねぇ、傷だらけのおじちゃん」
二人とも実に元気そうだ。そんじょそこらの生者よりも、きっと元気だろう。
「おう、久しぶりだな…」
そこまで言ったところで、言葉が詰まってしまった。視界がかすむ。
「ちょっと、リック…泣いてるの?」
リックの目から、どうしようもなく涙がぼろぼろと流れる。
「しょうがねえだろ、ずっと我慢してきたんだぜ…会いたかったんだぜ…」
涙声で言うリックを見て、リナは言う。
「…ちょっとくらい我慢しなさいよね…あたしたちだって、我慢…してたんだからーっ!!」
言葉の途中までこらえていた涙が、堰を切ったようにリナの目からあふれ出し、リナはそれを隠そうとするかのように、リックの胸に飛び込んだ。
「私だって我慢してたんだよ、お父さんが先に泣くなんてずるいよ…っ!」
そしてノエルも、リックに抱きついた。リックは二人をただ抱きしめ、それ以上は何も言わなかった。いや、何も言えなかったと言うべきか。
「家族って、いいなあ」
それを見て、エルは微笑んでいた。
「あら、エル君も家族に会いたいの?」
さらにそれを見た妖の長がエルに聞く。エルはうなずきながら言った。
「ちょっと、会いたいかなあ…会えるの?」
それを聞いて、妖の長はにっこり笑ってうなずいた。
それが何を意味するか、妖の長自身すら知らずに。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ