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□カラクレカラカラ オモカゲホノカ
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シトシトシトと雨の音
カラカラカラカラ歯車の
トクトクトクと何の音?
キシキシキシキシ軋んでる


燃えるような、と表されるあの御方の髪は、けれども俺には夕日の印象―――

それは生命の鼓動溢れる刻から、すべてを包み込む休息の刻へのその間。
とてもとても短い時間だけれど、それはそれは美しく、やさしく穏やかに、この世界を彩る。
だからだから、その夕刻を染め上げる夕日の色が冷たいものであるはずがない。
ゆっくり、ゆっくり、心に広がるこの安堵。
俺はその髪がすごくすごく好き、だった―――



ザァザァザァと雨の音。
バシャバシャバシャパシャ跳ね回り、
カラカラカララと扉が開く

「ただ今戻りましたー」
「龍。ああ――またひどい格好だな。」
「はは。突然、夕立に降られてしまいましたから」
「皆で心配していたのだ。また、どこかで迷っているのではとな。」
そう言って引き寄せられ、手ぬぐいでガシガシと濡れた髪を拭かれる。
どうせこの後、着替えるのに。随分過保護だな。
そう思いながらも触る指先の気持ち良さにおとなしくされるがままになる。
そんな龍斗の耳にクツクツクツという低く響く笑い声が届いた。
「なんですか?」
そう問えば、
「おとなしいものだなと、思ってな。」
笑いながらそう答えられ、思わずその胸元に耳を押しつけるようにして顔を埋めた。
ある程度乾いた髪を撫でられる。
その手に触れようとのばした手はけれど触れる事無くその袖口を掴んだ。
緩く触れる指先、心地よいその声に、目を瞑る。
押しつけた耳にトクトクトクと心臓の脈打つ音が聞こえた。


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