mein novel
□◇ハッピーエンドで終わりじゃない◇中
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レイアスがそうしろって言うから?
このままお話を完成させたら元の場所へ帰れるから?
それが私の、本当に望んでること?
ううん、違う。
そんなの私が本当に望むことじゃない。
今、はっきりと自分の気持ちに気が付いた。
私はレイアスが好き。きっとずっとレイアスに恋をしている。
無理やりキスをしようとしたとき。抱きしめられたとき。
ドキドキして心臓が止まりそうだった。
こちらに触れる手が、強引なのに思いのほか優しくて、まるで時が止まってしまったように感じた。
試されたと分かった後も、傷ついたと分かった後も、レイアスの壊れそうな微笑みを見ていると、胸が張り裂けそうに痛んだ。
私は、なぐさめではなく、この人を深く愛したいと、強く望んでいる。望んでしまった。
彼を想えば想うほど、胸の中に収まり切らない思いが溢れ返る。
「…私、彼の事が好きなんだ」
バカみたいだ。初めて知った恋なのに。
美咲は胸が苦しくて地面にしゃがみこんだ。
この気持ちは、許されないものだ。
舞踏会に行ってしまえば、正式に王子と出逢い、物語はクライマックスへと進んでいく。
物語が終わってしまったら、元の世界へ帰ることができるけれど、その代わり、二度とレイアスと会えないかもしれない。
そんなの嫌だ。
けれど、選ぶ権利は私にはない。
この世界が選んだ“シンデレラ”だから?
だけど本当にそれでいいの?
「私はシンデレラじゃない!!!」
私はただの受験生で、ただの14歳の普通の少女だ。
思わずうずくまった。
レイアスと別れるのも、お話を完成させるのもどっちも嫌だ。
もう少しゆっくり頭で整理したい。それだけの時間と余裕が欲しい。
(こうしてぐずぐずいる間にも物語は進んでいくのよ。そうよ、日が暮れたら魔法使いとカボチャの馬車が現れて…舞踏会へ行くんだわ)
美咲はきゅっと唇を引き結んだ。
(どうすればいい?)
拳を握る。
(そうよ…このままここにいても、何も解決しないわ)
美咲は反射的に屋敷から飛び出した。
(ここから出なきゃ…!)
闇夜を照らす幾億もの星空を独りで眺めている青年がいた。
彼は冬の凍てつく風から、寒さを避けるために深くフードを被っている。
揺れる髪から覗く瞳は、ガラス玉に空色を透かしたような蒼い瞳。
「聞こえる…」
彼は声を潜めて呟いた。
辺りは草叢のざわめく歌声以外何も聞こえない。
少年は耳をすませた。
それは、他者には決して聞こえない声だった。
世界が苦しみ喘ぐ声。
それは物語を欲するもの。
「急がなくては」
青年は焦りと不安を露にして頭上を睨む。
「…美咲?」
ふと、何かに気が付いたように、青年はフードを脱いだ。
硬く瞳を閉じて、少女の気配を全身で探る。
次にその目が開いた時、そこに宿したものは純粋な怒りだった。
「…逃げたな」
彼は憤った声でささやくと、その場から姿を消した。