mein novel

□◇ハッピーエンドで終わりじゃない◇中
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 右も左も前方も後方も闇に包まれている。


 唯一照らすのは天上に瞬く星空だけだった。


 すっかり日は暮れていた。彼女の周りにはかぼちゃの馬車も、魔法使いのおばあさんもいない。


「ここは…どこ?」


 息を切らして立ち止まると、闇だけが見えた。


 肩で呼吸をして、あたりを見渡す。何も考えずにずっと森の中を走っていたせいで、ここがどこなのかさっぱり分からなかった。


 周りには何も無い、真っ暗な森の中。


(自分の気持ちに整理がついて、どうしたいかはっきり分かるまで、舞踏会に出るのは嫌だ。これはシンデレラじゃなく私の意思なのよ)

 
 現実の世界でも、自分の意思はいつも曖昧で、親や先生の顔色ばかり覗っていた。


 美咲はそんな自分自身が大嫌いだった。


(でも今は違う。はっきり考えなきゃ。私のことなんだから。自分の未来は自分で決めるんだから)


 ふと足を止めて、元来た道を振り返る。


 後悔なんかしない、そう思って走ってきたのにどうしてだろう。


 彼を想うと胸がつかえた。


(レイアス、怒ってるだろうな)


 そのとき、地面が小さく揺らぎ始めた。大きな音を立ててそれは激しくなる。


「・・・地震!?」


 美咲が叫んだ瞬間、地割れするような音が足元から響き、突き上げるような揺れが身体を襲った。


 バランスを失った美咲は斜面から足を滑らせた。


「きゃ……!!!」

 
 地面の感覚が無くなって、宙に身体が放り投げ出された。


 両腕がむなしく空を掻く。
 

 目を見開くと、逆さまに底の見えない闇に落ちていくのが分かった。

 
「きゃあああ」


 恐怖以外の何も感じない。無駄だと考えながらも衝撃に供え、目を閉じた時だった。


「何してる」

 
 突然、落下する美咲の身体はピタリと止まった。


「美咲」

 
 声だけで誰だか分かった。


「レイアス・・・!!」
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