mein novel
□◇ハッピーエンドで終わりじゃない◇中
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「あれ……私、生きてる?」
すぐ側にレイアスの姿があった。
「大丈夫か」
彼はぎこちなく呼びかけて、浮遊する美咲の身体を抱き上げた。
その行動が思いがけず、美咲は硬直して目を瞬かせる。何が起こったのか分からず、頭が混乱した。
「主人公は何があっても決して死なないようになっている。傷ひとつつく事は無い」
レイアスは美咲を抱きかかえたまま地上まで浮かんで行く。
レイアスの手を借りて地面に降り立つと、そこで初めて生きている実感が確かめられた。
「た・・・助けてくれてありがとう」
美咲は礼を口にしたが、罪悪感で顔が上げられなかった。
「屋敷から逃げたことについては謝るわ。でも、待って欲しかったの。いきなり色んな事がありすぎて、自分の気持ちに整理をつけたかったから」
「だから逃げたのか」
美咲は小さく頷き、恐る恐る顔を上げるた。
そこには、厳しい表情をしたレイアスの顔があった。
「…駄目だ」
レイアスは淡々とこちらを見ていた。
「美咲が何故逃げたのか、理由は聞かない。だがもう待てない」
「どうして?少しの余裕も与えられないの?」
「主人公のいない世界が限界を訴えている。世界の崩壊が始まっている」
「おとぎの世界が…壊れる?」
美咲は息を飲んだ。
「もしかしてさっきの揺れが…崩壊の兆し?」
「おとぎの世界は姫から成り立つ。姫のいない物話は消えて崩壊し『シンデレラ』の話は永遠に消失する。未完の物語は誰にも読まれず、語られもしない。それは存在しない事と同じだ」
「私のせいで…シンデレラが無くなるの?」
それはあまりにも深く、絶望的な答えだった。
もしもこの世界が壊れたら、もう“シンデレラ”は誰かに読み聞かされることは無いというのだろうか。世界中の人々に愛され、語られ続けるこの物語が。
・・・未来永劫?
レイアスが必死になる気持ちが、少しだけ分かった。そして美咲自身が彼に多大なる迷惑をかけていることも。
それはとても哀しい事だった。
「主人公が背負う物は大きい」
自分の身勝手でわがままな理由で通る世界じゃない。
おとぎの国が消えれば、番人であるレイアスが傷つくだろう。
それは絶対に嫌だった。
美咲は覚悟を決めて唇を引き結ぶと、レイアスを見上げた。
「・・・私、舞踏会に行くわ」
レイアスはいつもの無愛想な顔に、少しだけ安堵した笑みを乗せて頷いた。