mein novel
□◇ハッピーエンドで終わりじゃない◇下
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イサベルは自虐的に笑った。
「相手はわたくしのお父様と同じくらいの年よ。貴族の娘にはよくある政略結婚だし、受け入れようとも思ったわ。…だけど、無理なのよ」
「他に好きな方がいるのね」
「騎士よ。気高くて誰よりも優しくて。彼じゃないとだめなの」
イサベルは首を横に振った。
「建前として政略結婚は重要よ。国同士の結びつきは大事だもの。わたしくしもね、そういう理由で他国に嫁ぐのだけど、…やはり納得がいかないものね」
「そんなに好きなら、いっそのこと駆け落ちしてみればいいじゃない」
イサベルはぽかんと口を開けた。
「あなたは面白いこと言うのね。でもわたくしは王女だからそんなことできなくてよ」
「…そうよね。失礼なことを言ったわ。ごめんなさい」
「わたくしはあなたが羨ましいの。自分の思うままに人を好きになれるんですもの。でも、出来ることならば一度くらい運命に逆らってみたい。王女なのにそう思うのって、変かしら」
美咲は首を横に振った。
イサベルの言うことは全然変じゃない。
運命に逆らうこと
それは美咲にはもう届かない夢のようなものだから。
やりなおすことができないから。
ひとつでも可能性があるならば、それを貫いて欲しい。
「全然変じゃない。むしろ格好良いと思う」
彼女の恋が叶うことを応援したいと思った。
「不思議ね。あなたといると何でも話せる気がするわ。わたくしにかしずいてくる貴族なんかよりもよっぽど。あなたは純粋で、それでいてとても自分の気持ちに正直なのね」
「私でよければいつでも話し相手になるわ」
「お兄様があなたを好きになった理由が、何となく分かる気がするわ」
「え?」
「わたくしが言うのもなんだけど、あなたがお兄様の妃になってくれれば、わたくしも嬉しいわ。でも、自分の恋はそう簡単に諦めちゃだめよ」
諦めちゃだめ?
イサベルはにこりと微笑むとスカートの埃を払って立ち上がる。
「ではわたくしはもう行くわ。今夜のパーティの席でまたお会いしましょう」
そう言うと彼女は颯爽とテラスを去って行った。
“諦めちゃだめ”
そんなこと言ったら、私もう諦められなくなっちゃうよ。
世界を崩壊させるも救うも美咲の想い一つにかけられる。
(……するべきことはもう始めから決まっているわ)
運命の時が刻々と迫ってきている気がした。