mein novel
□Queen of marriage〜女王の結婚〜
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第二章:魔法使いと亡き王の統べる国
春を迎えた緑豊かな王都ビングリー。
王都を囲む城壁の中心点に、一際大きく堀を囲むような形で王城カロラインは建築された。
朝日が照り返して白く輝く美しい王城。
だが、7年前より王のいないこの国は、臨時に政を行う大僧正オーウェン・リハインの独裁により活気を失っていた。
しかし、今日は違った。
王城を見上げる様に、人々の暮らす城下町にて、途切れることのない国民の歓声が上がる。
道端に立つ彼らが追う視線の先には、純白の五頭立て馬車が走っていた。
カロライン城に仕える大勢の近衛兵が護るその馬車には、純白の婚礼衣装に身を包んだ伯爵家の末娘、ロザリアが乗っていた。
彼女のために手向けられた祝いの花々が少女の頭上を舞い、くるくると風に散る。
国民の大歓声の中、彼女はそれまでヴェールの内に伏せていた白銀の睫をゆっくりと上げた。
そこから覗く深緑の瞳が、眩しい朝日をとらえ、僅かに細められる。
彼女の視線の行く先は観衆ではなく、ただ一点だった。
淡く黄金色に照り返すカロライン王城。
ロザリアは小さく溜息をつく。
ロザリア・アレイア
それが今日から呼ばれる彼女の新しい名。
若く、まだ随分と幼さの残る面は、年で数えれば僅か十三でしかない。
彼女は父親である伯爵の命で、今日カロライン城に輿入れするのだった。
政略結婚は貴族の娘にとって別段珍しくは無い。
どこかの国では、僅か五歳という幼さで他国の王子の下へ嫁したと聞き及ぶ。
ロザリアの上の姉達も全て政略によって他国へ嫁いだのだった。幼少より嫁いだ姉もいるくらいで、顔も知らない。
いつか自分の身にも父の政略の手が伸びるだろうとは思っていたが…。
ロザリアは再び「ふう」とため息を漏らした。
今日より花嫁の夫となる相手は、このアレイア王国の第二王位継承者であるリゼウィル王子だ。
7年前に事故で国王と王妃、そして王女が崩御し、唯一残されたのが、王の忘れ形見である王子であった。
今ではアレイアの王族の血を引くただ一人の継承者である。
「新王万歳!!アレイアに光あれ!!!」
国民は口々にそう叫ぶ。
ロザリアはその声を聞きながら一層憂いを帯びた瞳を閉じる。
祈るように膝の上で組まれた手が震えた。
「―――マカリアの山々におわします女神よ。どうか、この道を選んでしまった愚かなわたくしをお許し下さい」
ヴェールの内、花嫁は声無き声で呟いた。