本
□泡沫の恋毒
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朝日が眩しい
またひとりぼっちの朝がきた
貴方と離れてから三年が過ぎて
今はとても暑い夏の日
私は楓さまからの頼まれ事で
近くの川で
お野菜を冷やしに来ていた
後はお洗濯を
無患子の皮を向き
擦り合わせて泡を作った
泡は川の流れに任せて泳いでいく
川の真ん中に大きめの石
ぶつかって
ぱちん と はじける
二つに割れてまた泳ぎだす
見えなくなる手前で
二つがひとつにくっついた
あの時
私はただ泣きじゃくっていた
だって言っている意味がわからなかったから
どうして離れなければならないのか
私だけここに置いていくのか
私はもう貴方とは永遠に会えないのか…
別れたくないと
しがみついて
ただ泣いて
貴方を困らせた
私を強く抱きしめて
私の髪の毛をゆっくりと撫でた
耳元で小さな声で
囁いてくれた言葉
あの時は良くわからなかったけど
安心した気持ちになって
貴方の服に回していた手を
離した
この村にきて
皆からたくさんのお勉強をして
あの時に囁いてくれた言葉は歌だった事がわかった
《 瀬をはやみ
岩にせかるる滝川の
われても末に
あわむとぞ思ふ》
さっきの泡みたいに
また二人一緒になれる日がくるの?
明日 明日と
貴方を待ち侘びる
流れに飲まれて
泡が消えてしまわない内に
私を連れ出して
貴方にならいいの
貴方になら
足がつかない程
奥底へ
溺れてしまっても
私を呼ぶ声が聞こえる
誰なの?
貴方だったらいい
「せっ…しょう…まる…さ…ま?」
「ぼーっとして大丈夫か?りん」
あ…理緒だ
彼は私と同い年の男の子
この村一番のお金持ちの息子さん
はじめて村にきて馴染めずにいた私を気にかけてくれて
今ではすっかりお友達
「大丈夫〜川の水が冷たくて
ちょっと考え事してただけ」
「まだアイツの事…待ってるの?」
え!? と驚くと
いやなんでもないって言って笑顔をくれた
「洗濯物さ一緒に運んであげるよ」
手を差し延べされて
立ち上がろうとして
ぐらり
眩暈がして…
ばしゃりと川におちてしまった