黒絡
□呼び続けよう。君の名を
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「もう、一年もたつのか」
「早ぇもんですねぃ」
空は重苦しい鉛色。
一年前の今日もこんな日だった。
今も信じられない。
真選組を裏切り、俺を裏切り、鬼兵隊についたことが…そして、そんな彼を俺が斬った事が。
「どうした?」
「なんでもねぇでさぁ…わりぃんですが、もうしばらく…此処いていいですかィ?」
「…あぁ、俺らは先、屯所にかえってるからな、ゆっくりしてこい。」
局長達の帰っていく背中を小さくなるまで見送った。
再び墓石の前に戻ると紙袋から酒瓶を取り出し2つの猪口についだ。
「あんたは酷い人でさぁ。一年経ったって言うのに、頭からあんたの顔が抜けやしねぇ…」
殉職していった隊士たちの墓があるなかに、ひっそりと立つ名も記されていない小さな墓石。そんな墓石に寄りかかると、背中に冷たさがしみる。
「土方さん…あんたも飲みてぇでしょ?久々に…」
猪口を墓前に置くと、白い結晶が溶けた
「雪か……」
裏切った者の遺骨は、この墓場に納骨されることはない。しかし、局長と隊士たちにより秘密のうちに、この場所に納骨することになった。
「良かったですねィ…寂しい思いしなくて…しかも、タバコまで手向けてもらっちまって…」
供え物のタバコを一本取り出しくわえ火をつける
フゥ…。
雪は本格的に降り始め、辺りはうっすら白くなった。そんな雪を一滴の雫が溶かす。
最後に見せた笑みの意味
今も俺には分からない
ただ、今まで見た中で一番優しい顔してた。
喉と鼻の奥がツンとする。
タバコのせいか、寒さのせいか…
「タバコ、苦ぇや…土方さ…ん」
返ってくるわけのない返事を求め
あらわれるわけのない姿を求め
幾度も、幾度も
もう一度其の胸の中に抱かれたくて
もう一度互いの名前を呼び合いたくて
幾度も、幾度も
我偲ビ永久ニ呼ン君ノ名ヲ
アトガキ