戴き物
□涼しさは熱さの元
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涼しさは熱さの元
「つめたっ!」
ヒンヤリした水はサラサラと足の間を流れていく。
一歩歩く度にパシャリと跳ねるそれはとても気持ちがいい。
「ねぇ!入らないの?」
岸に立ってこちらを眺める魔人は穏やかに目を細めていて、思わずドキリと胸が高鳴った。
目が逸らせないでいると、ゆっくりと川に足を踏み入れてきて、
抱き締める腕に、一気に足先まで体が熱を持つ。
「確かに…冷ますには丁度良いかもしれんな」
「………///」
囁かれた言葉に、相手の胸に顔を埋めて隠れる事しかできなかった。
「え?川?」
「ああ。涼を採るには良いらしいぞ」
パソコンを見つめながら言うネウロを、ボンヤリと私は眺めていた。
8月も終わりだと言うのに、残暑は厳しく容赦が無い。照りつける太陽は肌を焼き、丸焦げになってしまいそう。
力無くソファーに寝転がっていると、ネウロはこっちに近づいてきた。
「どうだ。行ってみるか?」
「ん。涼しいの?」
「おそらくな」
我が輩にはわからん、と喉を鳴らして笑うネウロを、ボゥッとした頭で捉えていた。
「じゃあ行くぅ………」
だから、ボゥッと返事をした事なんて覚えてなくて、
次の日の朝にネウロが迎えに来た時、何が起こったのかわかっていなかった。
慌てて準備をして、電車に乗ったところでようやく、ネウロが私服な事に気づいた。
薄い水色のシャツに、白いTシャツ。下はジーパンだけど、いつものスーツよりは涼しげに見える。
「どうして今日はそんな格好なの?」
「……涼むのだからスーツは暑苦しいだろう、豆腐め」
笑われて、頭をクシャクシャと撫でられる。
なんだかうれしくて笑ってたら額をつつかれた。
「もう着くぞ」
「本当?」
降りたのは、あまり来た事の無い駅だった。人もあまりいなくて、静かな所だ。
爽やかな風が吹いて、白いワンピースの裾を揺らした。
「歩くぞ。すぐ近くだ」
持ってきた白い帽子を被り、歩きだそうとすると手を差し出された。
見れば、微笑んでいるネウロ。私はその手をとった。
手を繋いで、二人で歩く。
よくよく見るとネウロは手袋をしてなくて、素肌が触れ合う感触が心地よくて、握る手に少し力を込めた。
するとネウロも握り返してきて、うれしくて身を寄せると頭を撫でられた。
川まで、あっという間だった。
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