過去拍手

□Ragnarøk
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Ragnarøk

「…それが、我が輩が貴様を選んだ、理由だ」

静かな…いつになく真剣な声に、わたしは思わず一歩下がった。
こちらを振り向いた白い頬は、悲痛なまでに赤く染まっていた。
世界の終わりの、色だ。

死ぬつもりなのだ。

わかってしまった。
ネウロは…死ぬかもしれないことを理解して、それでもこれを―この世界の終わりを、残された力すべてで止めるつもりなのだ。
究極の謎を生み出す可能性を持つ種族を守るために。

―私を、守るために。

振り向いたネウロの瞳が光を放ったように見えた。
私だけを見つめる瞳に、いわくいいがたい感情が宿って揺れる。
―アヤさんの美しく哀しい声が、夕暮れ色の世界に溶け合ってゆく。

「ネウロ…?」

私の声に促されたかのように、ネウロは静かに焔の柱へと向き直った。

そして、前屈みになり―青い布に包まれた両腕だけをまるで祈るかのように天へと掲げて、極彩色の両翼へと変化させた。
細いのに筋肉質な腕を、一瞬にして美しい羽毛が覆う。
青い布が千切れとんだ。
黒革に包まれた手のひらは鋭く曲がった鉤爪へ。
整った顔を構成していた白く美しい鼻筋、流麗な眉、すっと引き締まった赤い唇が、見る間に巨大な鸚鵡のそれへと変化していった。

そう。―これが、この魔人ネウロの本来の姿。

ばさり、と大きな音を立てて、ネウロが空へと飛び立った。

「ネウロ!!」

私の声はもう、届かない。

黄昏色の空の中に、羽ばたく魔人の姿が吸い込まれてゆく。
凄絶な美しさに見とれて―哀しみをこらえて、私はその姿を見守った。
―今、私たちを救えるのは、彼だけなのだから。

「彼」だけなのだから。

「おおー、神じゃ!!神が我らを救いに来なさった!!」

地元の人々が、そう叫ぶのが聞こえてきた。

―神、なんかじゃない。

自分が微笑んでいるのがわかった。

神なんかじゃない。アイツは、魔界の謎を喰い尽した魔人、脳噛ネウロ。
彼が、自分でそう言い続けていたじゃないか。
その言葉を信じる。
アイツなら―アイツだけが、私たちを救えるのだろう。

誰よりも私がそれを知っているのだから。

―やがて、ネウロの姿が焔の中へと吸い込まれていった。

私は静かに、その背中を見守りつづけた。


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