Long

□Beside
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Beside


生きる道のほうがいい。 
オグ・マンディーノ 『この世で一番の奇跡』より


「犯人は・・・お前だっ!」
いつものように、自分の意思とは関係なくひとりでに動く腕。もう、この異物感にも慣れた。弥子はほうっとため息をついた。これで自分の役目は終わり。後はネウロの仕事だ。
いつものように後ろに下がり、いつものようにネウロが説明を始める。
何もかも、いつもどおり。
そのはずだった。

「この事件で最も重要なのは、被害者が自殺であるのか、他殺であるのかという点です。警察は自殺であると断定なさったようですが、それは被害者に争った形跡がなかったから。そうですね?笹塚刑事」
「ああ」
「しかし、この事件には自殺と断定するには不審な点がいくつかあります・・・」

ネウロが察知した「謎」の気配をたどったら、いつものようにそこには笹塚と石垣のコンビがいて。
ちゃっかりと事件の概要まで聞いて、ネウロは「食事」を始める。
こちらのことを黙認してくれている笹塚は、もう何も言わない。

ネウロの話が進むにつれて、犯人の顔に次第に焦りが浮かんでくる。
必死に言い訳をする犯人と、冷たく的確にそれを封じるネウロ。
弥子はそれを横目で見やって、肩をすくめた。今日は何時に帰れるんだろう・・・。

「う、嘘だ。何かの間違いだ!お、俺のはずがないんだ。刑事さん、あんたはわかるだろ!」
「・・・残念だが、弥子ちゃんはこれまでに間違ったことがないんでね」
「うそだああぁぁぁあぁぁあああ!!」

狂乱状態に陥った犯人を、笹塚が確保にかかる。
ネウロは「食事」に取り掛かろうと、犯人にさらに一歩近づく。
犯人はやけにおとなしく、笹塚に腕を任せる。先ほどの狂乱状態からは想像もつかないその様子に首をかしげながらも、笹塚は手錠を取り出そうとした。
ネウロははっとした。
「待てっ!」









私、



なんで



こんなに血が。




「弥子ちゃんっ!!」


笹塚が大声で叫ぶ。

遅かった。

犯人は右手に煙立つ拳銃を握りしめ。
脇腹を撃たれた弥子は、血まみれになっていて。
内臓まで達しているらしいその弾は、…確実に「死」を示していた。

「こ、これでいいんだ。お、お前がし、死ねばいいんだ、そうしたら俺は犯人じゃなくなる、俺は俺は俺は俺は……」

このやろう!笹塚は目の前の男を怒鳴りつけようとして、…できなかった。
プレッシャーとでも言うべき凄まじい重圧に、思わず崩れ落ちるように膝を突く。

……何だ?これは。
サイやシックスと対峙したときでさえ、これほどの重圧は感じなかった。

視界の隅に、自分と同じように崩れ落ちている石垣の姿が映る。
笹塚は必死に首を動かして、視線を弥子に向けた。
意識を失っているらしい。彼女ではない。では、誰?

さらに首を回す。

そして、唐突に理解した。

弥子の「助手」である青年が、口元を冷たい笑みに歪めながら、弥子を撃った犯人を見下ろしていた。
ただ一人、立って。


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