Long

□四つの物語  Type : 66 03:泣いてはいけない
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これはネウヤコ前提笹ヤコで、未来捏造話です!!
嫌悪感を覚えられる方は直ちにブラウザバックをお願いいたします。


こうしてホテルのベッドの中から窓辺の月を見上げていると、まるで何もかもが昔のままのようだ。

かつて何度もこうして夜を過ごした。
隣にいた男は傲慢で横暴で、オマケに底なしの体力を持っていたからいつも疲れきっていた。
当然のことだろう―なぜなら男は魔人だったのだから。

―ああ、私は馬鹿だ。

そんなことを考え始めてしまったら眠れなくなることくらいわかりきっているのに。

でも、考えずにはいられないのだ。
弥子を残し、何も言わず突然姿を消したあの魔人のことを。
美しく気高く、誇り高かった男のことを。

本当に、一言もなかったのだ。
予告すらせず男は消えた。

地上にいることで彼がひどく弱っていたことを知っていたから、
弥子はむしろ冷静に「そうか、ネウロは魔界に帰ったのだ」と考えた。
考えて、考えて、考え続けた。
考えていなければ底のない絶望に呑まれてしまいそうだった。

絶望的な事実に。

ネウロにとって弥子は、置いていくことさえどうでもいい、ただの玩具のひとつに過ぎなかったのだと。
様々な事件を共に乗り越え、築かれていたように錯覚していた絆は所詮まやかしだったのだと。
あれほど体を重ね、心を沿わせても、彼の瞳に映っていた自分は玩具に過ぎなかったのだと―。

それを悟った日から、弥子の体は一切の食べ物を受け付けなくなった。
とてつもなかった食欲も完全に失せ、食べ物を口に入れては吐き、飲み込んでは吐いた。
部屋から出ることもできず、ひたすら座り続け、考え続けた。

このまま死んでも構わないと、死にたいとさえ思った。


ふと、隣に目をやる。
今、自分の隣で眠る男性を。

色素の薄い髪の下には、男性的に整った顔と、同じく色素の薄いあごひげが隠れている。
無防備に眠る彼の目元にくっきりと濃い隈を認めて、弥子は少しだけ目を伏せた。

―笹塚、さん。

彼が手を差し伸べてくれなければ、私は今頃どうなっていただろう、と思う。
母の出入りさえも拒み、部屋の中で緩やかに死んでいこうとしていた弥子の前に彼は現れた。
いつもと変わらない平静な目で。
ドアをぶち破るという非常識な方法で。

―弥子ちゃん、俺が代わりになってあげるよ。

平然と、とんでもないことを言ってのけた。

―俺がずっとそばにいるから、ほら、そこから出ておいで。

どうしてですか、と聞いた言葉に、彼はいつもと変わらない無表情のままで、

―弥子ちゃんを見ていると、…大事だった人を思い出すんだ。
 だから、苦しまないでほしい。…幸せでいてほしい。

勝手だとわかっていた。
彼に重荷を背負わせてしまうことも。
弥子は彼を愛せないし、彼も弥子を家族として以上には愛せないだろうことも。

それでも、…すがらずにはいられなかった。
そうでなければ、死んでいた。

そして、私は今でも笹塚さんにすがっている。
すがって甘えて生きている。
どうしても彼のことを“衛士”とは呼べない理由さえ、心の奥に封印したままで。


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