捧げ物

□Heretic
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まるでビスクドールのように目を見開いた彼女の、ガラス玉のような瞳に罪悪感を禁じえない。
ああ…彼女の心に土足で踏み込んでいる俺は、どこまで最低な男なんだろう。でも、それでも俺は、それでも、キミノコトガ、


「…あいつは…」

「………」

「あいつは、本当に最低なヤツで。人を人とも思わなくて。遠慮なく暴力をかますし、ありとあらゆる暴言で私を罵る」


知っている。


「殴る蹴るは当たり前、人を椅子にしようとするし縛り付けるし…私に選択権なんてないし」


それも、知っている。


「でも、それでも……」

「好き、なの?」




「…わからない…」




泣きじゃくる少女の姿に、ふと苦笑いがもれる。申し訳ない、なんて俺に思う資格ないのに。
周囲の視線が痛い。泣いている女と泣かせた男…きっとそう見えるんだろう。その通り。
ただひとつ、間違っているのは、俺に、彼女の隣にいる資格なんかないってこと。


それを許されるのは、やっぱり、アイツだけなのか?…桂木。


「桂木」


「は、い……?」

上目遣いのその瞳も、ああ、


「好き、だ」


見開かれた目に映るのは、今だけでいい、俺だけでいて欲しい。

「俺は、桂木が、好きだ」


何度だって言うよ、ネウロ。あんたが彼女に何も告げない限り、何度だって。
だって、俺なら彼女に約束してやれる。どんな明るい未来も夢見ることができるんだ。俺は人間だから。彼女と同じ、人間だから。


「俺と付き合ってほしい」


俺にはできないことがあんたにはできるのかもしれない。
でも、あんたにはできないことが、俺にはできる。

未来を約束すること。確実な幸せをあげること。


「匪口さん…」

「俺を、選んでほしい」


それは、できないことなのかい?


「私は、」

「桂木……?」

「きっと、匪口さんといれば、幸せになれると思う。匪口さんなら、私を幸せにしてくれると思う」

そうだよ。俺が俺であるかぎり、桂木を幸せにすると誓う。でも、その言い方は…?



「私は…それでも、どうしても、ネウロしか、選べない。いいえ、ネウロしか、選ばない」



「桂木、」


そう、か。
真っ白になった心に、その言葉がいつまでもリフレインする。


ネウロしか、選べない。いいえ、ネウロしか、選ばない。


なぁ…知っていた答えなのに、なんでこんなにつらいのかな。


「しんどいなぁ」

「ごめんなさい…」

「謝るなよ。俺がなおさら惨めだろ?」

「ごめ…いえ」


ネウロ。あんたは本当、ひどい奴だな。こんなにも桂木を捕まえといて、そのくせわざと手を離してみせたりする。
誰だって魅入られてしまうだろう?危うい蛍の光が、消えそうに脆い光が、人の心を捕らえて離さないように。


「桂木。俺は、それでも待つよ」

君がはっきりとネウロを選ぶまで。ネウロが君の手をとる日まで。


「いつか俺を選んでくれることを願って。…待つよ」

「匪口さん…」


言葉をなくした少女に、俺は無理やり微笑んでみせる。
それが、俺にできるせめてもの強がりだから。


ネウロ。俺は宣戦布告したよ。あんたは?



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