捧げ物

□Saviour
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もし人間が憎悪や 高慢や 恐怖を
 軽蔑できたら
もし人間が涙を流さぬように
 生まれついていたら
どうして おまえの歓びに近づくことができようか
 パーシー・ビッシュ・シェリー



目を開くと、視界一杯によく知った顔が映りこんだ。
弥子は一瞬唖然とし、さらに今の状況を掴み切れぬままに勢いよく身を起こそうとして…そのまま崩れ落ちた。

「…阿呆か貴様は」

異様に近い秀麗な顔が舌打ちを漏らし、弥子の背中を支える。
その口調だけは普段通りの彼だったが、今現在その当人が採っている行動ときたら到底全く信じられない。

「…あのですね、ネウロさん」

「何だ」

「私、なんで膝枕されているんでしょーか」

そう、弥子は今、ネウロにしっかり抱き上げられる格好になっているのだった。来客用のソファの上で。
さらに言うなら、来客用のソファの上の、ネウロの長い脚の上で。

「いけないか?」

「いけない、いけなくないの問題じゃなくて!!この状況に陥った理由を聞いてるの!!」

「ふむ、いい度胸だなヤコ」

ネウロが物騒にぼそっと呟き、弥子をじろっと睨む。
思わず背筋を正そうとして、猛烈な吐き気に体を二つに折り、それと同時に直前の記憶が蘇る。
そうか…私、学校で熱を出して…すごく気分が悪くて…それでも何とか事務所に行こうとして…ドアの前まで着いて…
その後…その後、どうしたんだっけ…

「ここに来るなり倒れてそのまま起き上がろうとしない貴様を抱き上げてソファまで連れて行ってやった上に、
熱に浮かされてソファから転げそうになっている貴様を支えるためにわざわざ膝枕までしてやったのだ。我が輩が。この我が輩が」

「えっ………って、えええええ!?」

ちょっと待った。心の中で考えていたことに対して返事が返ってきたこともかなりショックだが、それ以前の問題だ。
ヤバい、まずい、かなりマズい。
つまり今、自分は、この大魔人さまに多大なるご迷惑をお掛けしてしまっている、ということになる。

たぶん普通の人間ならそこまで迷惑には思わず、「困った時にはお互い様ですから」くらいですませてくれるであろうと想像できるが…
この魔人の『迷惑』の基準が一般人よりもかなり、相当、激しく低いことは周知の事実だ。つまり…


間違いなく、絶対に、地獄のような「お返し」をさせられる!!


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