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□Alternative
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Alternative
この贈り物によって、私はあなたを天使より上位に置いたのです。
なぜなら、天使は選ぶ自由をもっていないからです。
オグ・マンディーノ 『この世で一番の奇跡』より
「ネウロ」
高く細い声が耳に届き、我が輩は思わず顔を顰めた。
眠りにつこうとしていたところをちょうど邪魔された格好だ。苛々する。
たかがウジムシの分際で、我が輩の思考を妨げるな。
「ねえ、ネウロってば」
「・・・煩い」
今日はやけにしつこい。何だというのだ。
しぶしぶ目を開け、思いがけずすぐ近くにいた元凶の薄い色の瞳とまともに目が合い虚をつかれる。
「ネウロ、あのね、人が他の生き物と違うとこって、何処かわかる?」
唐突な問いかけ。
思わず考え込む。
「・・・頭脳、か?」
「残ねーん、はずれー!!あのね、答えは、『人には選択ができる』とこなんだよ」
楽しげに笑うヤコ。
忌々しいのとわけが解らないのとで顔が顰められるのが自分でも解った。
苛立ちに任せて呟く。
「・・・何が言いたい」
「善を決めるのも人間、悪を決めるのも人間」
歌うように少女は言う。
「破壊よりも創造を、傷つけるよりも癒すことを、堕落するよりも成長することを、
奪うよりも与えることを、死ぬよりも生きることを・・・憎むよりも愛することを選択する力」
蜂蜜色の髪の毛を、窓から差し込む斜陽が照らした。
赤とも茶ともつかない不思議な色合いに変化したその頭を揺らし、瞳を半ば閉じるようにして、ヤコは幸せそうに微笑んでいる。
「その選択を間違ったとき、人は『謎』を生むでしょう?」
「・・・ああ、そうだな」
あまりに意味の解らない言動に、逆に興味が湧いた。
そのまま強制的に黙らせてもよかったのだが、思いとどまる。
たまには、戯れに奴隷の話に付き合うのもよかろう。
わざわざトロイのこちら側にまで回ってきて身を乗り出すようにして懸命に話すヤコに、
何か感じるものがあったのかもしれない。
「ねえ、ネウロ」
「何だ」
「私だって、人間だよ」
「・・・解りきったことを」
呆れ果てて溜め息をついた。
「貴様、阿呆か?自らの種族さえ失念するとは・・・
ああ、そうか!すまんなヤコ、貴様はウジ虫だったな!確かに人間ではない」
「どさくさにまぎれて何言ってんのよ!!・・・もう・・・。アンタはいつもいつも・・・まあいいや」
無礼にも溜め息などついて見せるヤコの頭を掴んでやろうと手を伸ばした時。
「私は、あんたのそばにいることを、私の意志で選択する」
微笑みとともに、放たれた言葉。
思考が、停止した。
「貴様・・・・・・」
「ねえ、ネウロ」
ヤコが静かに笑う。
心なしか、声音までいつもと違って響く。
「少し、私の話、聞いてくれるかな?」
「―――別に構わんが」
ぼそり、ひと言そう答えると、
「ありがとう、ネウロ」
楽しげな笑顔がそれに答えた。・・・やはり、調子が狂う。どうしたというのだ。理解できないことに苛々する。
―ヤコが、口を開いた。