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□死が二人を分かつまで
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朝だ。
カーテンから漏れる光が目に痛い。

身動きしてすぐ、ネウロが隣にいないことに気付く。
それでも、不思議と不安のようなものは浮かんでこなかった。

とにかく服を着ようと身を起こし、全身に走る鈍い痛みに思わずうめき声を上げる。
同時に、シーツに擦れた皮膚が、弥子自身も驚いたほど鮮明に冷たい革手袋の感触を思い出させてぞくりとした。
自分の服のように器用にシャツのボタンをはずして腹部にするりと入り込んできた大きな手は、
作り物である証にいつもそうやって黒い革手袋をはめているのだ。

なかなか消えない感触を振り払おうとシーツをとりのけ、
きちんと着こむのも面倒なので適当なスウェットを引っ張り出して頭から被る。
少し肌寒かったので床に落ちていたネウロのブルーのジャケットを羽織って立ち上がった。

体は本当にだるい。このままベッドに転がってもう一度寝入ってしまいたいほどに。
だが、それ以上にネウロの顔が見たかった。


扉をそっと押し開け、廊下に出る。


ネウロが魔界に帰ってから、自立しようと母のもとを離れて一人暮らしを始めた。
ネウロがさりげなく残して言った大金の助けも借りて買ったこのマンションは、それほど大きくも豪華でもない。
時々雑誌記者などを案内すると「桂木弥子」には相応しくないと驚かれたりもするが、弥子自身はとても気に入っていた。
なぜかこの部屋はとても居心地がいい。
どことなく、かつてネウロと共に構えていた「魔界探偵事務所」を思い出させるからだろうか。

あの建物は、ネウロのいない間に取り壊されてしまった。
弥子とネウロは今、違う場所に新しい事務所を構えている。
昔と変わらないのは、通りに面した大きな窓と、その前に鎮座するトロイの姿だけ。
そして、トロイの隣の壁につながれた美人秘書の姿だけだ。

けれど、ここは事務所ではない。トロイもあかねもここにはいない。
リビングに続く扉を押し開け、中を窺う。


「ネウロ」


そっと、声をかける。


「・・・ああ、貴様か」


まるでいつもと変わらない声の調子に少しだけ安堵して、向かいに腰掛ける。
魔人は小型のノートパソコンと向き合っていた。
大きな手がキーボードの上を器用に這いまわる様に、またぞくりと肩が震えた。

ああ、こんな当たり前の動作にさえ、こうして特別な意味を感じてしまうのだろう。これからは。

「ジャケット、着ないで寒くないの」

「我が輩を何だと思っている。馬鹿め」

全く貴様は何年たっても変わらず大馬鹿だなとネウロが笑う。
楽しげにキーボードを叩く様子から上機嫌なのが伝わってきて、弥子は苦笑した。


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