Short

□Doctor and Peacock
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天/野/月/子氏の「博/士/と/孔/雀」設定でのパロです。





自分がどうやら他の鳥たちと大分違うらしいことは、かなり早くから気づいていた。

もちろんネウロは孔雀、それも雄の孔雀であったから、
他の鳥たちにはない虹色に輝く尾羽を持っていたし、
それは他のどの雄と較べても文句なしに一番鮮やかで美しかったが、
彼の変わり種なところはそこではない。

どうやらネウロの意識は、鳥類と言うよりも遥かに人類に近いものであるらしかった。
というよりもネウロは自身を半ば人間であると判断していた。
どういうわけだか鳥の形に生まれてしまっただけの、紛れも無い人間だと。

彼が自分を人間だと見なす何よりも大きな理由は、求愛したいと思う相手にある。
通常生物は子孫を残したいという本能に従い、同じ種族の雌とつがいになることを望む。
それは遺伝子に刻み込まれた、根源的な欲求である。
だが、ネウロは、同種である孔雀の雌たちに対してどんな欲望も抱かなかった。

ネウロが見つめるのは一人だけだ。
小柄で不器用で、大して美しくもない人間の雌。

彼を飼育し観察する女博士、桂木弥子。


捕われてここに連れてこられた時、ネウロは逃げ出そうと思えば逃げ出せたはずだった。
何しろ彼女はネウロに人間並の、いやそれ以上の知性があるとは知らない。
加えて動物を拘束するのが大嫌いときていて、
ネウロはそれなりに立派な小屋を軒先に与えられた上に、何一つ監視を受けなかった。

逃げなかったのは、この奇妙な人間に興味が沸いたからだった。
動物を拘束し実験に利用するのが本業であるはずの生物学者という仕事をしていながら、
桂木弥子は実にお人よしで、動物を痛めつけるのが何より嫌いであるらしかった。
この仕事についた理由が、滅びゆく動物たちを保護し共存する術を模索するためだというのだから恐れ入る。

初めは弥子のそのような考え方を馬鹿にしていたが、
彼女に付き合うにつれ少しずつ考えが変わっていった。
弥子は何につけ必死で、全力で物事に向き合おうとする。
だからこそ彼女の言葉には意固地な心をも溶かしうる確かな力があるのだ。

それを思い知らされたのは、無意識のうちに弥子を視線で追っている自分に気づいた時だった。
それが「愛着」だと解らないほど、ネウロは愚かではなかった。




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