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□第六章 問【たずねる】
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第五章 問【たずねる】
やすらはで寝なましものを小夜ふけてかたぶくまでの月を見しかな(赤染衛門)
夜中突然、私の部屋に現れた男。
さんざ失礼なことを言ってくれやがって、しかも人を屋根の上に置き去りにして去っていった男。
結局あのあと私、お母さんにさんざ事情を聞かれて、大変な目に遭わされたってのに!!
本当のことは、言えなかった。
お母さんは、ただでさえ少し心配性なところがある。
夜中に男に部屋に忍び込まれたなんて私が言い出した日には・・・私はたぶん、厳重に見張りをつけられて、二度と外に出られなくなる。
たぶん、あの男にも、会えなくなる。
・・・あれ。
私何で、あの男とまた会うことを、考えているんだろう・・・?
私を、ヤコ、と呼んだ男。
・・・脳噛、ネウロ。
「カグヤー!!ご飯よー!!」
お母さんの声が、私の意識を呼び戻した。
「はーい、わかったー!!」
明るく返事をしておいて、私は部屋着に袖を通した。
私のお母さん―桂木遙は、基本的に、料理をしない。
しないというよりも、周りがさせない、と言うほうが正しいかもしれない。
お母さんの作る料理には、何というか、形容しがたい凄まじい毒性があるのだ。
前、お月見のお団子を作ろうとしたときなんか、盗み食いした鼠が泡を吹いて死んだくらいだ。
鼠とりよかよっぽど効き目があるよ、全く…。
というわけで、我が家はお手伝いさんを一人雇っている。
私も料理できないわけじゃないけど、あんまりしない。食べる前に味見してしまっていつも作り終える前に全部なくなっちゃうからだ…。
「いっただっきまーす!!」
手を合わせて、早速ご飯に手を伸ばす。
白米15杯目を平らげて、そろそろお腹も治まってきたところで、私は何気なくお母さんに質問を発した。
「お母さん…」
「なあに」
「私って、妖なのかな」
お母さんの顔が瞬時にこわばった。
「解ってるよ、お母さん。聞いてほしくないんでしょ?それくらいのことは気づいてるよ」
「…なら、どうして、聞くの」
「…妖だったらいいのにって、思ったから」
「え…?」
戸惑った顔をするお母さん。それはそうだろう。お母さんにわかるはずがない。
ネウロ・・・あの男は私に、自分のことを『狭間を生きる生物だ』と言った。人ならざるもの。妖に通ずる、その美しい姿。
妖。
奴が私を求めた、理由。
「…カグヤ」
お母さんが、ひどく静かな声で、私を呼んだ。
「あなた…何か、あったの…?」
「…ううん」
そう答えるしか、ない。
私の表情に何かを感じ取ったのか…お母さんはいきなり立ち上がり、私のすぐ隣に来た。
私の頭をぐしゃぐしゃかき混ぜるようにして、囁くように言葉を紡ぐ。
「カグヤ…あなたはね、天から授かった子。子のない私に、神様が与えてくれた子よ。2人といない、大切な、私の子供よ」
「お母さん」
私はそんなことが聞きたいんじゃないよ、お母さん。解ってるくせに…ずるいよ。
そんな顔されたら、これ以上、何にも、尋ねられなくなっちゃうじゃないか…
「遙さん?」
突然掛けられた声。
お母さんが、あからさまに『助かった』という顔をして、声を掛けた人―我が家のお手伝いさん、美和子さんのほうを振り返った。
私は少々恨めしく思いつつも、お母さんから身を離す。
「ど、どうしたの、美和子さん?」
あからさまに怪しいお母さんの様子に、美和子さんは少し戸惑ったような表情になりつつ…けれど、はっきりと、言った。
「あの…内裏からの使いだという方が、いらっしゃってます」
「内…裏?」
「はい。姫さまと遙さんにお話だそうで…」
私たちは顔を見合わせた。内裏…なぜ?雲上人が、私たちに何の用だというのだろう?
嫌な予感がした。とてつもなく、嫌な予感。
お母さんも同じ予感に見舞われているようで…表情が硬い…。
To be continued.
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