捧げ物
□言の葉(神ミラ)
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【有言】
「強敵だ…」
「ええ、そうね。お疲れ様、神田君。」
「まだ、終わっちゃいねェ…」
「戦闘は終わったのよ?」
「いや、まだだ!」
「もしかして、意識が!?神田さん、大丈夫!?クラクラする?」
「ああ…非常に。」
「ええっ!?う、動ける?」
「無理だ…動くとヤバい。」
「そ、そんなに酷いの!?ああ、ごめんなさい、ごめんなさいぃ!!私なんかを庇ったせいで…」
「煩い。もう良いから何処か行け!」
「嫌よ!こんな状態の貴方を放っておくなんて…」
「誰のせいだと思ってる!?」
「私なんでしょ?だからこそ、ここに居なきゃ…」
「だからこそ、何処かに行け!」
「何と言われても、嫌よ!」
「で、何であんなことになってるのかしら?」
周囲の温度を明らかに下げつつ、薄ら寒い笑顔で問うたリナリーに、しかし平然と答えた彼は流石というべきか。
「何でも何も、見ての通りミランダさんがバ神田を助け起こしただけですよ。」
「位置!」
「目の前にミランダの胸…う、羨まし「ラビ?」
「い、いえ、何でも!」
思わず本音を漏らしかけたラビを、氷点下のまなざしで黙らせて。
「ああ、巻き戻しの街で僕を庇った時も、あの体勢でしたね。」
「無防備にも程があるわよミランダ!」
「ちょ、何でアレンには何も言わないんさ!?」
「って、あの状態で邪なこと考える暇なんてありませんよ!…貴方と違って。」
「あの状態?俺にはわっかんないさねー」
しっかりと皮肉を混ぜるアレンと、意に介さず惚けて見せたラビに、しかしリナリーの鋭い視線が突き刺さる。
「とにかく、引き剥がして!」
引き離す…ではなく引き剥がす、なあたり、彼女の怒りの程が伺える。
「「了解」」
巻き添えを食らっては堪らないとばかりに、神田の元へ駆け出す二人。
「ミランダさん、大丈夫ですか?」
「ええ、でも私より、神田さんが…」
「ユウは俺達が運ぶさ。だから…」
「いいえ!神田さんの意識が戻るまで動かせないわ。」
「いや、あの、意識って…」
クラクラする…って言ったのは、明らかに彼女が原因なわけで。
けれど、その理由をストレートに説明するのは憚れる。
彼女のことだ。
真相を知った途端、羞恥のあまり卒倒するくらいのことはしてくれるだろう。
一瞬の躊躇。
それが更なる事態の悪化を招く。
「神田さんがこうなったのは、私のせいだもの!ラビ君達は先に行ってて、ね?」
言い方は柔らかでありながら、その腕は渡さないとばかりに神田を抱き込んで。
必然的に、ミランダの胸に顔を埋めることになった神田に、当の彼女は全く気付いていない。
辛うじて覗ける首が真っ赤に染まっていることから、今の神田の状態は明らかで。
…こりゃ、死んだかもな、ユウ。
…頭から変な煙出てますよね。
「でも、ミランダさん、此処に居るより、早く治療して貰った方が良いんじゃ無いですか?」
「で、でも…」
きっと、彼女の中では現実的な考えと責任感がせめぎあっているのだろう。
長い沈黙の後、意を決したらしい彼女が顔を上げる。
「そう…ね。アレン君の言う通…?」
「ミランダ、さん?」
やっと求める答えが出かけたというのに途中で止まり、アレンが首を傾げる。
と、
「きゃああぁ!!か、神田さん!?しっかり!!…ああ、意識が無いわ!どうしましょう!?わ、私のせい!?」
「ミ、ミランダさん、落ち着いて!」
「そうさ!そりゃ、ミランダのせいといえばそうだけど…」
「や、やっぱり私のせいなのね!?ごめんなさい、神田さん!!」
「馬鹿ラビ!!」
「俺のせい!?って、ミランダ!それ以上やんなって!ユウが永眠するさー!!」
数時間後、心配してやって来たファインダー達が見た光景は…
大地を縦横無尽に駆け巡るクレバスと、ズタボロになって倒れ伏したエクソシスト3名。
そして、その中央に立ち尽くすリナリー・リーと、彼女の傍で泣きじゃくるミランダ・ロットー。
…何とも凄惨なものであったという。
Fin.