ぜんてい

□buon compleanno!
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目の前にずらりと並んだ和洋折衷いろとりどりの料理に、思わずネクタイを解いていた手が止まった。

おかえりなさいと声がしたのでテーブルからキッチンへと視線を向けると、これらを作ったであろう張本人が慣れた手つきで生クリームを泡立てていた。え、ちょっと待て。まだなにか作る気なの?


「…はやと?」

「はい?」


俺の声に手を止めた彼は、首を傾げてこちらを見た。そのエメラルドの瞳には今はシンプルな銀縁の眼鏡がかかっている。袖を捲り着崩したワイシャツの上から黒のエプロンを身に纏っている姿は、とても様になっていて俺は不覚にもどきりとしてしまった。


…て、そうじゃなくて。


「なに作ってんの?」

「ケーキですよ」


あぁそうですか。さらっと返された言葉に、俺は頬が引きつるのを感じた。

落ち着け俺!ケーキってことはデザートだ。デザートってことはこの料理で最後だろう。うんうんと1人勝手に現実逃避と言う名の自己完結しながら隼人から視線を横に流すと、目線にちらり。俺ははたと止まって恐る恐る口を開いた。


「…そっちのは?ケーキの材料ー…じゃないよね?」

「パイ生地です。美味しそうな林檎が売っていたので」


ニコニコと笑顔を絶やさず言い切った隼人に、俺は内心こんにゃろと悪態をついた。俺がなんでこんなこと聞いてるのか分かってるくせに。でも折れてやるのも癪で、意地で笑顔を張り付けたまま首を傾げた。俺だって伊達にマフィアのボスとして毎日狸じじいの相手をしてはいない。


「あとなに作るの?」

「これで終いです。何か他に食べたいものがおありですか?」


作りますよ、と言う隼人の言葉にしっかりと首を振り、同時にこれで終わりと言う隼人の言葉に安心した。

しかしどうしてくれようこの料理。隼人の料理は彼の姉とは違いかなり美味い。10年前はてんでダメだったが、慣れてしまえばマニュアル人間な隼人にとって料理なんて朝飯前で、作る料理はレシピ通り完璧な仕上がりになった。ついには1回口にしただけでその料理を完璧に再現出来るほどになってしまい、最近では超一流のお抱えシェフも真っ青な腕前だ。

しかしどんなに美味しくとも、大人二人分にしては少し…いや、かなり多い。

ジッと料理を見ながら思案していると、目線を感じて顔をあげた。すると隼人が俺を見ながらカウンター越しにニコニコと笑顔で俺を見つめていた。


「…楽しんでるでしょ?」

「はい」


俺の問いに意地悪く笑った右腕に、ついに俺は表情を崩した。昔は可愛かったのに、と出かかった言葉を無理矢理飲み込んで俺は隼人を睨み付けた。

すると隼人はエプロンを脱いで俺の隣りの席に座った。いつの間にやら作業は終わっていたらしい。オーブンからは既に甘い匂いが上がっている。


「すみません。期待に応えられませんで」


は?なんの。そんな俺の声は突如開いたドアと聞き慣れた声によって書き消された。


「よ!ツナ。獄寺も」

「邪魔するよ」


つかつかと入って来たのはいつもの黒いスーツではなくラフな恰好をした武と恭弥さんだった。

迷いなく俺たちの前に腰を下ろした2人にハテナを浮かべていると、武が手に持っていたワインを隼人に手渡した。年代物のそれとピンクのリボンは見覚えがあり、俺ははっとして壁にかけてあるカレンダーを見た。

ああ、そっか。現状を理解した俺はなんで言ってくれなかったの、と小さく呟くと、耳のいい優秀な俺の右腕はすみませんと言って笑った。もう、敵わないなあ。


「ちょっと待ってて。着替えてくるから」


そう言って部屋へ向かう前に、俺はあっと振り返った。


buon compleanno!

(武、)(恭弥さん!)



****

大人ごっきゅんは料理が出来る男になってればいいな、という妄想。

ぷらす

やまひば
おめたん!

一緒にしてごめんね
てか出番なくてごめんね´`
予定外にいま忙しい(…)


細かい設定とか気にしたら負けなんだからっ!



2009.05.02 ウキ

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