灯火
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熱く眩しい光が地上に降り注ぎ、木が青々とした葉をつけ、生命が活気に満ち溢れる夏。
呉国もまた、国全体が活気溢れていた。それはもっとも暑くなる真昼時でも変わらず、皆の活力は底を尽きない。
民達は農業や商売に汗を流し、宮廷の女官らは食事の準備などに追われ、文官は暑い部屋で雑務に勤しみ、兵や武将達は厳しい鍛錬をこなす。
夏とはいえ、懸命に仕事をしていると実に清々しく、良い天気だと感じられる気候だった。
だが真面目に取り組んでいるからといって、全ての人々が心地好い気分でいるという訳ではない。
「何ですかこのふざけた提案は」
呉のとある執務室は、まさに吹雪だった。
淹れたばかりの熱い茶さえ、一瞬で凍りついてしまうのではないかという程の空気。
その元凶となる声の主は、名門貴族の出身で、齢一七にして呉の上位文官にまでのし上がった人物であった。
髪は濃い茶をした栗色で短い髪だが、うなじ部分だけを腰まで伸ばすという独特な髪型をしており、指で触れるとさらさらと音がしそうな程細い。瞳は黒く、他を威嚇し見下すような目付きをしている。服装は文官らしくゆったりしていて、薄らと赤い衣を身に纏っていた。
一七の子供ながら威圧感のある眼と品を漂わせる風貌に、流石は名門貴族としか言いようがない。
「何を以てこの案を出したのか、じっくりと説明してもらいましょうか」
「その……ぅ……」
提案書を出した部下の男は、己の上司である少年から漂う別の寒さに身体を震わせ、何か言葉を発しようとしても圧倒されてしまい上手く口が動かない。
怯える部下に少年は強く言葉を吐いた。
「上流貴族の更なる私兵の増員なんて、誰が納得するんです。無茶な徴兵は、民衆へ反乱の火種を蒔くようなものですよ。それとも、貴方が乱を起こしたいのですか?」
「なっ…そのような事は決してっ!」
「ふん。とにかく、この案は却下します。無い知恵絞ってもっとマシな案を出して来るんですね」
「か、畏まりました」
部下は深々と一礼し、青ざめたまま足早に去って行った。