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□私と貴男ふたりきり
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私と貴男ふたりきり
司馬懿は朝から自室に籠り、遅くまで仕事をしていた。
普段も夜更けまでよくやるが、今回は近い内に大きな戦がある。その為仕事の難易度と量が格段に増し、必然的に朝から部屋に籠る状態になっていた。御陰で司馬懿はろくに睡眠を取れず、常に寝不足。
恋人である李黄はそんな司馬懿を心配しつつも、国の存続に関わる重大な仕事をしている司馬懿に、安易に休んで下さいとは言えなかった。今の李黄に出来る事といえば、黙って茶を出す事くらい。
李黄は淹れたばかりの熱い茶を盆に載せ、司馬懿の斜め後ろに座る。
余程集中しているのだろう。司馬懿は李黄が近くにいる事に、全く気付いていない風だった。
李黄は迷った。茶を入れ替えるだけだが、やはり一言声を掛けた方が良いだろうかと。しかしそれは今の司馬懿にとっては邪魔になると思い直し、冷たくなってしまった茶を片付ける。
一口も飲まれていない茶を見詰め、李黄の心は益々不安になっていく。こんな量をたった一人でするなんて、いつか倒れてしまうのではないか。下手をすれば病気になってしまう。そんな事を思っていた。
李黄は司馬懿の背に視線を移す。先程の不安から無性に抱き締めたくなる衝動をなんとか抑え、熱い茶をそっと卓に置いた。お疲れ様ですと口の中で呟き、冷たい茶の載った盆を持って立ち上がる。
「待て」
「え?何でしょ、うわっ」
司馬懿の声が耳に届いた瞬間、強い力が李黄の腕を容赦無く引っ張った。
茶と盆が激しい音を立て、床に落ちる。
「……急に引っ張ると危ないですよ?仲達様に何かあったら堪りません」
そう、静かに呟く。
李黄は司馬懿の胸に顔を押し当てる格好で、しっかりと抱き締められていた。
「声くらい掛ければよかろう。黙って私から去ろうとするな」
「んっ……申し訳ありません、仲達様。次からは」
司馬懿は李黄の柔らかい耳を甘噛みした。女のような声を漏らし、瞳を濡らして誓う李黄に司馬懿は雄芯が反応しているのを感じる。
「責任を取れ。お前が私を誘ったのだからな――……」
そう言うと李黄の顎を指で掴み、上を向かせる。色のある目を細めて司馬懿を見詰める李黄は、男とは思えぬ程堪らなく妖艶だった。
「李黄……」
司馬懿の鋭い目が欲の強い瞳に変わる。有無を言わさぬ絶対的な支配に李黄の胸は高鳴り、唇が早く重なりたいと、疼いていた。
「はい、仲達様。なんなりと――……」
そっと重なる柔らかな唇に、李黄と司馬懿は甘美な心地良さを感じた。