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□狂おしき恋重荷
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狂おしき恋重荷


「ぼくはどうして戦に出ちゃ行けないの?」


丸々とした大きな黒い瞳。その瞳に映る私の顔は、どう言えばよいか解答に苦しんでいた。


私を見上げるのは、劉李という劉備殿の第三皇子で、私とは密かに恋仲だったりする。

今月二十歳になったばかりの青年だが、童顔で背が低く、華奢な身体で本当に女性のような容姿だった。声も少女のように澄んでいて、口調も割りと幼い。その上柔らかな物腰も相俟って、皆とても成人男性とは思えず、十六くらいの女子にしか見えなかった。


先程の質問をされたのは、劉李様と二人、私の屋敷で桃の実を食べている時だった。それまで談笑していた劉李様であったが、ふと笑顔を止め、不思議そうな表情をして私に問うたのだ。


「それはですね、貴方が」

「あ、皇子以外にしてね?」

「……」


実はこれが初めてではない。昔から何度も繰り返されてきた問いだった。

私や他の者は皆、聞かれる度に貴方は皇子様だからですと無難な解答をしてきた。だが、あまり歳の変わらない兄である劉禅様が、当の昔に既に初陣を飾った事もあり、何故自分だけいつまで経っても行けないのかと、最近になって深く疑問に思っているようだった。


「ねぇ子龍、どうして?」


どうしたものか。


正直、桃李様の能力は優れている方ではなかった。愛らしい容姿と優しさで人望は厚いが、それ以外はまるっきり苦手としていた。

昔から物覚えが悪く、運動も苦手。せめて簡単な兵法や基礎武術だけでも覚えようと、ずっと彼なりに懸命に努力はしているのだがなかなか実を結ばない。

そんな状態で初陣させるにもいかず、劉備殿はずっと劉李様を戦場へは連れて行かなかった。


「……やっぱり、ぼくがいけないんだよね」

「貴方の所為ではありません」


私がそう言うと、劉李様はありがとうと、哀しそうに笑った。


「でもね、やっぱりぼくが不器用だからなんだよ。顔とか女の子みたいだけど、もう男の人なのに。馬にも乗れないんだから。女の子の星彩だって乗れるのに」

「劉李様……」


懸命に努力しているのに、毎日遅くまで真面目にやっているのに。本当にお優しい方なのに。どうしてこの方は、その様に哀しい顔をしなくてはならないのだろう。

一部の者から皇子らしくないと陰口を言われているのも事実。その内容は時に酷いもので、劉禅様以上の蜀の重荷だとまで言われていた。


優しいだけでは皇子になっていけないのか。劉李様は人の話しをよく聞き、間違った意見でもきちんと最後まで聞け、迷えば恥じらう事なく人に尋ねる方だ。足りない所は周りの者が補えばいい。

それではいけないと言うのか。



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