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□守人の咎
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守人の咎


秋の爽やかな空気に似合わない、真っ赤な死体の高原。

その中に一人、服や顔に一つの汚れも無く立つ少年がいた。

彼に近付く一頭の馬の音。乗っているのは陸遜だ。少年を探していた陸遜は彼を見つけると溜め息を吐き、愛馬から降りて足早に少年に近寄った。


「何をしているのですか、陸樹。早く本陣に戻って下さい。もう皆帰り支度を始めているのですよ」


背後から声をかけると、陸樹と呼ばれた少年は不満気な顔をしたまま振り返った。


「貴方の考えた策がどうなったか、ちょっと見てみようと思いまして。私は陸遜さんと違って本陣待機型の軍師ですから」


真っ白な羽の先を薄らと赤く色付けした、陸樹の羽扇。それを指でクルクルと回しながら、再び死体の山に目を向け、不機嫌そうに言い放った。


「役立たずってこの事ですよね」

「っ、陸樹!」


陸樹の心無い発言に陸遜は怒り、強く睨み付けた。


孫呉を守る為に散っていった大切な命に、どうしてそんな言葉を放つのかと。


陸樹は陸遜の従兄弟だった。陸遜に引けを取らず有能な者だが、口が悪く、思った事をそのまま言う癖があった。御陰で武将達と仲が悪く、常に陸遜が間に入って仲裁していた。


同い年で同じ陸一門なのに、どうしてここまで違うのだろうか。


「今のは聞かなかった事にします……。さあ、帰りますよ」

「別に気を遣って私の側にいてくれなくても結構ですよ、陸遜さん」

「貴方は私の従兄弟です。気にかけるのは当然でしょう」

「鬱陶しいって遠回しに言ってあげたんですけど、分かりませんでした?」


他人ならまだしも、身内である陸遜に対してまでこの有様。やはり嫌われているのか。陸遜は悲しい表情を浮かべた。


「それよりも、結構死にましたね」


さらりと吐かれた言葉に、陸遜の胸が強く痛む。


「っ、私の責任を言っているなら、否定はしません」

「別に。この策は失敗とはいえませんし。それに、私も貴方の策に加わりましたから」


陸樹は淡々と言うなり、陸遜の愛馬に向かって歩き出した。


「ま、役立たず同士、適当に頑張りましょ」


擦れ違い様、羽扇でぽんっと軽く陸遜の頭を叩く。


「あ……」


先程言った陸羽の役立たずという言葉は、決して死んでいった兵達を馬鹿にした訳ではなく、陸樹自身に向けたものだったのだと陸遜は気付いた。


「何ぼーっとしてるんですか。ほら、帰りますよ陸遜さん」


古参の将が渋る陸遜の提案を後押しするのは、いつも陸樹だった。持ち前の毒舌で相手に反論の余地を与えず、毎回見事に説き伏せてしまう。

いつも自分が陸樹を支えていると思っていたが、彼に助けられる事も多いと改めて気付き、陸遜は嬉しさと情けなさで涙を零した。


「……泣き虫」


陸樹がからかうようにそう言うと、陸遜は泣きながら失礼ですねと笑った。


有能とはいえ、軍師としてはまだまだ力の足りない二人。少しでも無駄な犠牲の出ない策を練れるよう、陸樹と共に頑張って行こう。そう、陸遜は心に誓った。

陸樹は陸遜の様子を見てふっと小さく笑う。そして左手に手綱を持ち、右手で陸遜の手を引くと、皆の待つ本陣へゆっくりと歩を進めた。





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