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□あみだくじの行方
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あみだくじの行方
曹丕と司馬懿は言葉を失っていた。
曹丕は目を見開き口を開けて固まっていたが、直ぐに意地悪く口角を上げ、面白そうに目の前に立つ男を見上げていた。一方司馬懿は頬をほんのり赤く染め、じっと男を見詰めている。
男の名は香陽という。
幼い頃から曹丕の身の回りの世話をしており、兄弟のように育った人物だ。
香陽は鮮やかな郡青(ぐんじょう)色の女の衣を身に纏い、薄らと白粉を付け、赤い紅を差している。まるでどこかの貴婦人のようだ。
元々美しい顔立ちをしている香陽。彼が女装をすれば、女として一生を過ごせても可笑くはないと思う程全く違和感が無かった。
「くす。司馬懿様、余りじっと見ないで下さいませ」
「っ…、見詰めてなどおらぬわ」
笑みを浮かべて恥じらうように袖で口を隠す香陽の仕草に、司馬懿の胸が強く揺れる。曹丕がそれを見逃す筈もなかった。
「ほう、仲達は香陽を好むか」
「曹丕様、私に男の気はありません。…まぁ、美しいとは、思いますが」
二人のやり取りに、香陽が小さく笑う。
そもそも、何故彼がこの様な格好をしているのか。
実は曹丕、司馬懿、香陽の三人で小さな酒宴が開かれていた。暫く談笑していたが、突然曹丕が何か遊びをやろうと提案。三人で色々考えた末、短時間で決着が着く運任せのあみだくじが良いだろうという事になり、司馬懿は早速女官を呼んであみだくじを書かせた。そして曹丕の強い押しで、外れを引いた者は女装をするという罰を決めた。
この三人だけで集まる時は無礼講と決まっており、今回は運任せの遊びだったが、どんな遊びでも手加減無く行うのが暗黙の規則だったりする。
今回は不運にも香陽が外れを当ててしまい、こうして女装をする事になってしまったのだ。
だが、予想だにしない事が起こった。
香陽の女装が余りにも美しく、余りにも似合い過ぎており、美女に見慣れている筈の曹丕と司馬懿を、見事に見惚れさせてしまったのだった。
そんな事とは露知らず、香陽は妖艶な笑みを浮かべている。