クラブTOSEI

□りおのりは理不尽のり・第二夜・前編
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指を入れるのは、久しぶりだ。

恥ずかしがらず、自分を捨てて思いきり突っ込むのがいいと言われている。道具はあえて使わず、指でその感触を探れとも。

覗き込む。滑らかで白い肌、へこんだ部分はうっすらと水滴がついている。

オレはごくりとつばを飲み込んで腕を捲った。

何だろう、この気持ち。

指を入れる。

ひんやりする。

そのまま動かす。

でこぼこする。

ああ‥

この気持ちは‥


「屈辱だ‥!!」


オレは自分の部屋と同じ広さの空間で叫んだ。

左手の雑巾をたたき付ける。
「ちくしょうオーナーめ!!なんであんな時に出て来るんだよ!」

壁に手を付けた。が、ちょうどそこは赤外線スイッチだった。

ごっ、と一度こもる音がすると、吐き出すように水が流れ出す。
男子用便器はただ無情に、その水を下で飲み込んでいった。

「やっとトイレ掃除から抜け出したのに‥」
どこのクラブでも、トイレ掃除はど新人の仕事だ。これを恥ずかしく思わない男はいない。
トイレを相手にしないように成り上がらなければいけないのだ。

頭を便器の中に突っ込んで、普段見えない溝を雑巾で磨く。さっき指で触ったけれど、さすがにほとんど汚れはない。

ホストクラブの質は清潔かどうかにかかっている。客が使わない男子便器でも、舐めても平気なくらいでなければならない。

「うわ、マジでやってるよ。超うける」

入って来たのは一番見られたくない奴。

「オーナーの抜き打ちにあったんだって?バカ利央」
同期の迅はすたすたと便器の前に立ち、今掃除したばっかりの陶器を汚した。

この野郎‥

なんかもうどうでもよくなってきたし迅を見ていたら自分も催してきた。隣に立つ。

「だけどお前も抜けてるよな。なんであの状態で出ちまうんだよ」

あれは昨日。オレが応対した受付の電話。

教えられたとおり「明るくはきはきと丁寧に」を心掛ける。
「お電話ありがとうございます。ホストクラブTOSEI、利央でございます」
こんなことでも客がつくことがある。

落ち着いた女性の声。
『席は空いてる?』
「はい‥恐れ入りますがお客様のお名前をお願いします」
『あら‥?』
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