クラブTOSEI
□りおのりは理不尽のり・第二夜・後編
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(‥兄ちゃんがあの人に義理尽くしてるのわかるわ)
音痴の「通りゃんせ」。高いビルやイベント会場が並び、ほぼ空中都市の東口とはえらい違い。全てがうす茶色にかすんでいるアーケード。Loftだけが異様に空へ飛び出している。
兄ちゃんもマスターもうちのホストだった。だけどなぜかマスターが早々とやめてしまう。やがて兄ちゃんが店長抜擢かって時にあの人が現れて店を起こそうと言ったんだ。
店長とちっさなバーの店員じゃあ待遇はえらい差だ。
でも兄ちゃんは今、月給20万で店のメニュー作りに没頭している。
すげぇ仲がよかったって和さんが言ってた。
(なんかすげーよな)
ちょっと鼻水がでそうになり、鼻をこする。
友情とかそんな簡単な言葉で片付けられるものじゃないと思う。
オレにも‥
通りゃんせがふつりと切れてサイレンに変わる。
あ、やべ。
横断歩道の真ん中で立ち往生しそうになった。足早に渡りきると、向かおうとしていた方向の逆に曲がった。
少し歩いてそっと振り向く。
緑色のカブリオレ。その前に立つ、しなやかな背中。
背中は屈んで、車の持ち主に何かささやいているようだ。窓から手入れの行き届いた指がはみ出る。
クラクションが鳴るとカブリオレは急発進した。包みを抱えて、彼は車の消えた先に手を振る。
すげ‥
いつ見てもなんかすごい。
オレは見届け終えたので歩調を元に戻して先に向かった。
が、先に進めない。後ろから大きな力で引っ張られている。
「観察しといて挨拶は無しか。いやらしい奴だな」
ダッフルのフードをつかまれている。Bダッシュをかけたが足は空回りするだけ。
「オイ、何もしねぇから無駄なあがきはやめろ。何、オレが何かすると思ってんの」
いや‥
すでにオレ、羽交い締めにされてその台詞を耳越しにささやかれてるんですけど‥。
「慎吾さん、周りの人が見てます‥」
サイタマの路上。黄色いカバーのランドセルが足元をかすめる。
「見せ付けてやればいい」
「嫌がらせはやめて下さい」
振りほどいてやっと正面で向き合う。
「なんだよ、風邪で休んでるんだと思ってた。まだ声がひどいな」