クラブTOSEI

□りおのりは理不尽のり・第三夜・後編
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革製のキーホルダー。付いている鍵にはギザギザじゃなくて丸いへこみがいくつも付いている。


「それとこれ。いいか?まず鍵をかける。で、ドアの横にリーダーがあるからそこに読ませる」

カードを渡された。


スーツの音。オレが着てるのとは明らかに違う布地だ。

「お前は休みだと伝えておくから。好きな時に出てけ」

コートを引っかけ、玄関に降りて靴を履く。

無駄がない。


「‥ありがとうございました」

オレはスウェットのまんま、裸足のまんまで頭を下げる。

くしゃ、と頭をつかまれる。


「お前さ」


とろりとした香水の匂い。


「‥お前はそのままでいいから」


オレは慌てて顔を上げる。


「しん‥」


ドアが閉まった。


人が一人いなくなると、空間は様子を変える。


空気が少し灰色がかって、肌を圧迫する。


オレがここの住人でないことの気恥ずかしさがようやく分かるのだ。


「オレ‥バカなのに」

独りごちる。


変わりたいのに。

それで、慎吾さんのヘルプとしてもっと頑張りたいのに。


「いつか、慎吾さんみたいになりたいのに‥」


病み上がりだからかな。

目をごしごしこする。

バッカだなあ。

オレ、もうイイ年だぜ?


ふと右を見ると、備え付けられた鏡に泣き顔が映る。

ものすごく恥ずかしくて目を背けた。


ああ‥


「ダメだダメだダメだ!!」

オレは足音を荒くして部屋中を駆け回り全ての大丈夫そうなクローゼットを開けた。


窓も全部開けた。

冷たい風が中の空気と交代する。


スイッチを入れる。


オレん家のやつとは違うモーター音がして、掃除機が床を滑る。


トイレを洗って、床を磨いて、風呂も磨く。

慎吾さんもちゃんと掃除をしてるせいか、道具は見事に揃っていた。

たまに、「ナニコレ?」と思うような奇妙な外国の道具があったりもする。


掃除は、嫌いだ。


ガキの時は片付けるなんてことは頭になくて、いつも親に叱られた。
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