クラブTOSEI
□りおのりは理不尽のり・第四夜・1
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暖冬と言われていた冬が終わり、桜が咲いたら瞬く間に散って、道路がピンク色に染まる。
つつじが咲く。
ペンペン草もハルジョオンも空へ伸びる。
―そして、サイタマの夜にも花が咲く。
女の子に囲まれ、手に握られたケータイが光る。
画面を確認すると携帯を交換してまたシャッター。
三人のお客は液晶画面を見比べて盛り上がった。
春のせいか、彼女たちはいつもより服が鮮やか、笑顔にも華がある。
だけどそれを褒めても、ひらひらと手で否定する。
「だって利央くんの方がお花畑みたいだよ!!」
‥うん。
わかってる。
オレは今、見事なラフレシアだ。
今日は「和装デー」。キャバクラの「浴衣デー」みたいなもの。異装して接客をするだけで、客が立ち寄る口実になる。
西のホストクラブ「ウエストコースト」で派手なイベントを催していると聞いて、オレも何かできないかなとないアタマこねくり回して企画書を出してみた。
ダメでもともとだったのに、和さんに拾われてしまった。ミーティングの議題にのぼり、山さんが衣裳の工面ができると手を上げた。
調理場側も和食中心のメニューを出したいと沸き立った。
‥ところが。
「やるなら徹底的にしようよ。いろんな服の人がいた方がいいよねぇ‥?」
山さんのほっそい目から何かが光った。
―桜模様の上着とえんじの袴。
足には編み上げブーツ、くるくる頭の後ろにリボン。
そう、オレは「大正時代のハイカラさんコスプレ」をさせられているのだ!
なんでこうなるんだよ!
理不尽だ!!
「ねえ、これ友達に送っていい?」
お客の一人が携帯を見せる。「かわいい」とかいうけどこちとら186センチだ。不気味な画像にしか見えない。
オレが答えあぐねていると、店長の和さんがテーブルに入って来て膝をつき、革製のメニューを開いて差し出す。「それではお飲みものからご注文お願いします」
三人はメニューを受け取る。