よろず小説
□殺したい。
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−男の体はグラスファイバーで組み立てられたように、精密で直線的なもんだと思う。
「何組?」
まだ背も低くて細くて乳臭いオレ達は、グラウンドのネット前で出会った。
細い目の代わりに口の端があがった。
「外部だよね。オレはさー、あんまクラスの人とか顔を覚えないタチなんだけど、島崎くんは目立つなぁ。空気持ってるからかな。
‥オレにないモノ」
殺したい。
丁寧に洗い上げられた足の指。それでも口に含むと少し砂の味がして、草の匂いがする。
舌で舐めて、吸い上げる。
相手がびくりと動いた気がした。
気のせいか?
それとも。
両足指を隅々まで舐めるとそのままくるぶしから太腿へ舌を這わせる。
グラスファイバーは硬質だけれど、力を加えればしなやかに綺麗に曲がる。
なるほど‥な。
野球という古めかしいスポーツに酷使された体。三年間ボールを追っては打ち、
繰り返していると少しずつ肉と骨が経験を年輪のように重ねて太くなっていく。
こうして18年、生きて来たんだ。
生きた証がありありと分かるから、オレはむしろ同性の身体を好む。
教科書を借りに教室へ行くと、あいつはいつも一人だ。
いや、誰かと一緒にいて喋ってさえいる。
だけどオレはひょっとして霊感でもあるのだろうか、あいつの周りだけ白く縁取られている気がするのだ。
「慎吾は、神様なんか信じてないでしょ」
廊下で教科書を受け取ると、突然奴は言った。
そりゃあそうだ。家には仏壇があるし幼稚園では毎朝座禅だった。
牢獄のように高い位置にある窓。女子は覗き込むのに背伸びが必要だ。奴は窓枠にほお杖をつく。
「オレもねえ、日曜日にオルガンで歌ってたけど、何かにすがるのって変じゃない?」
窓に背を向け、隣に立つ。
「だってここ日本だろ。適当なのがほとんどじゃないの」
「うん」
こっちを見た。
「―でもオレ、適当じゃないよ」