よろず小説
□ウォーターガーデン
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「うあ〜‥‥」
目の前は空色のホリゾント。まだ夏の始めですこし薄い色。
揺れる、水面。
額と頬がちりちり焼ける。
「はあ‥」
眩しい夏に似合わない、深いため息をつく。
―何してんだろ、オレ。
ウォーターガーデン
ちっさな浮輪に無理矢理乗っかって波に身を任せる。
周りはカップルと家族連ればかり。
カップルは夏のせいで解放されすぎてイチャこいてるし、目の前で抱き合いながらキスしやがるし。
ガテンな父親がガキンチョを担ぎ上げ、周りのメーワク考えずに水の中へ落っことす。
水しぶきに目をつぶる。
「なぁ、こうしてっとさ‥」
後ろに、のしっと重みを感じた。バランスを崩しかけて足をばたつかせる。
「ちょっ、乗らないで下さいよ。沈みます!」
相手は構わず、耳元でぼそっと囁く。
「オレら、カップルみたいじゃね?」
振り返ると下がり気味の目が鈍く光った。
そして少しだけ笑うと、どりゃっ、と言って全体重をかけたのだ。
オレは浮輪をつけたまま真っ逆さまに沈められた。
青い静寂がそこにあった。
「‥もお‥鼻にも耳にも水入ったじゃないすかあ‥」
じりじり焼けるコンクリを、片足ジャンプして歩く。
「これはオレの浮輪だっつの。利央、オマエ一人占めしすぎ」
オレより多少背の低い先輩が先を行く。だけどその背中はオレよりずっと、しなやかな筋肉で構成されている。
「慎吾さんはオレほっといて波打ち際で女の子観察してたんでしょ」
オレは先輩の腰回りを見遣る。
そこにあるのはピンク色の浮輪。「シナモン」とかいう耳の長いウサギだかネズミだかわからないキャラクターがひらひら飛んでいる。
‥一体誰のだろ‥似合わない通り越して怖いし‥。