よろず小説
□Devil's Food Cake
1ページ/11ページ
進学校なんてのは受験5教科さえできりゃいいもんで、時間割には英語と数学がひたすら並ぶ。
それ以外の実技教科はどうでもいいわけだ。
だから敷地内にプールがあっても授業はなく水泳部のテリトリーと化しているし、体育は選択制、体育館でテキトウに体を動かし、レポートを提出すれば評定7はかたい。
チャリで移動しなきゃいけないほど遠いグラウンドなんかフツウ行かないから、篠岡の千代ちゃんは毎日草むしりをしなきゃいけないんだよな。
(まあ、オレはそれ以前の問題だけどね)
Devil'S Food Cake
家庭科室はいつも空。たしか二年になると週に2コマくらいあるとか。調理実習は何回やるのかな。かわいそうな教室だ。
「お前、いつもこんなとこに来てんの?」
こっそり作った合鍵を差し込むと、背中に声があたる。
ベージュのジャージに両手を突っ込んでいる幼なじみ。
頬にかかる髪を耳にかけてぼやく。「んだよ、自習になるとたまに消えてっから屋上で吸ってんのかと思ってたじゃねーか。こんな隠れ家があるなら早く教えろよな」
ドアを開けると濡れ羽色のアタマが先を越した。
コンロと食器棚がある以外は理科室と変わらない。元・後輩はイスを4つ並べると、さっさと横になった。
ジャージからはTシャツが覗く。毛筆体で「男気」とか書いてある。
(相変わらずダサいな)
教師に見つかってはまずいので念のためドアに鍵をかける。
そういえばオレも今日はジャージだ。
‥オレはユナイテッドアローズのオレンジ色。中のシャツは紺と黄色二枚重ね。ジャージはバカ高かったけど、シャツはバカ安い。安物は無地だろ。
「だけどさあ、こんな場所なら田島と三橋も連れてくりゃよかったじゃん。机に突っ伏すのって結構きついんだぜ」