クラブTOSEI
□りおのりは理不尽のり・第二夜・後編
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節の出た指が自分のあごを触る。全てに力が抜けているようで、それが身体に不思議な線を描かせる。
しかし、堂々と紫が似合うよな。
慎吾さんはTシャツに紫のダウンを引っ掛けていた。オフの格好なわけだけど、ものすごく高いヤツなんだろうな。
「どこ行くの。店は反対側だろ」
「あ、ええっと‥」
目が泳ぐ。慎吾さんは包みをごそごそやりだした。
「ああ、Loftか。山ちゃんに触発されてグッズでも買うのか?」
「ええまあ‥」
包みから箱を取り出し、しばらく見つめる。そして、
「オイ利央、これやるわ」
ポンと投げ渡された。
黒光りした箱に銀の文字。オレだってこの文字が何を意味しているのか分かる。
「ししし、慎吾さんっ!」
先輩はまだ包みを探っている。
「そうだよな、不服だよな」
「違いますよ!これいくらすると思ってるんですか!」
「42万」
それをぽいって。
ボール投げるみたいに。
「今度あの客が来たらそれを着けて出ろ」
何かふと目を止め、包みをたたんだ。
「で、それについて尋ねられたらオレはそんな安いブランドつけないって言っとけ」
オレは手の中にある箱を見つめた。
「嫌か?」
鼻先が触れるほど顔が近づいた。
「向こうも分かってやってる。旦那いるしな。たまにゲームをして、仮想のプレゼントをすること自体を楽しんでるんだ」
袖を少しまくり、時計を見る。
「‥ちなみに、ソレはいくらですか?」
「機能で考えたら国産だろ。電波時計だから、20万かな」
「はあ‥」
目が回る。
「お前はその時計で彼女に最大級の礼をしておけ。‥あとは向こう次第だ」
慎吾さんはこう言った。見栄を張れないならそれまで。それ以上の駆け引きを楽しみたいならもっと金を積んでくる。
「基本だぞ。もしかするとお前の客になるかもしれないから頑張れ」
背中を叩き、右手を上げて慎吾さんは駅へ上がっていった。途中で携帯を出し、「あ、ちょっと思い出したから。じゃ」
あっさりと通話をやめる。
オレは黒い箱に目を落とした。
(オレ‥やっぱ向いてないのかな)
暖冬のちょうど谷間。コートにつっこんだ手も冷たい。