よろず小説
□ウォーターガーデン
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オレみたいなのだと、野球やってるとは思われないんだってさ。
で、これに上乗せ。
「オレ、キャッチャー」
手をひらひらさせて女の子が沸いた。うそだぁ。
面白いよな。みんなキャッチャーっていうとドカベンなんだよな。いいじゃん、オレはキャッチャー好きなんだから。
「信じてないっしょ。見てて、今からサインやるから」
監督仕込みのサインを披露する。「内角好きみたいだから一球外してからひっかけさせろ」
声が上がった。そして、いきなり警戒がなくなった。彼女たちはバスケ部だそうだ。背は低いけど、この子達だって好きでやっているんだろう。
「でもウチいきなり初戦で強いとこ当たっちゃったんだよね」
頑張ったんだけどねとみんなもささやく。
一人が頭に手をやって言った。
「だから最後のシメにここにいるんだけど‥あ」
顔が近づいた。
「そっか。そっちも初戦敗退組だ!じゃないと、来ないよね!」
音が消えた。
水の中に落ちたみたいだった。
目の前にあるのは空気じゃなくて水。
彼女達の声が聞こえない。
芋洗いのプールサイド。
パラソルの森。
滑りやすい地面を駆け回る子供。
みんな、みんな音が遠い。
雨が降ってる。
―あの日、オレは濡れもせず汚れもないユニフォームで灰色のグラウンドを見ていた。
「あれ、どうしたの」
動けない。
「ごめん」
震える右肩に手。そこから顔を出す先輩。
「オレ、こいつを一日4万で買ってんの。ちょっとした羞恥プレイがしたくてさ、女の子ナンパするように言ったんだよね。でも嫌みたい。オレ以外だめみたいよ」
「はああ!?」
声を出したら、音が耳によみがえって来た。
慎吾さんは顔をこちらに寄せる。
「そういうこと」
女の子たちが叫んだ。一日ってどんだけ?やっぱり特別な店に行くの?
慎吾さんはテキトーに嘘を並べて、「というわけだから、ごめんね」
骨と筋肉がひきつれるくらい強い力。オレは足をもつれさせながら走らされる。