よろず小説
□トイレの花子さん
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「たしか赤い紙だと血まみれで、青い紙だと溺死だっけ」
ひとりごちて流しに向かうと、
ノックの音がする。
振り向いた。目をしばたたかせた。
三つある個室の真ん中が閉ざされている。
左手で髪をかきあげる。
―え、今いたっけ?入ったの?それとも、オレが入る前からいた?
生理的欲求が先だったから、記憶が追い付かない。
ノックが強くなった。
え‥マジで花子さん?
蛍光灯がふと消えた。
水谷は小さく叫んだ。でも窓から外灯が差し込んでいる。しばらく我慢しているとトイレのすべてが見えるようになった。
蛍光灯がいかれた?それともブレーカーが落ちたのかな‥
どちらにしろ無機質なこの空間にいるのは無駄だ。手なんか外で洗える。
今のは気のせいにして、水谷は廊下に出ようとした。
個室が揺れた。
背中に氷を入れられたみたいに縮み上がった。
木でできた仕切りと金具がきしきし音を立てる。
「な、‥なんだよ‥勘弁‥マジ」
一回、大きな音がした。
水谷は女みたいな悲鳴をあげた。