よろず小説

□トイレの花子さん
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だが。









「‥待って。行かないで‥」


か細い声が聞こえる。




ようやく合点がいき、水谷は肩で深く息をした。


なあんだ。


さっさと引き返し、個室の前に立つ。

「栄口だろ?なんだよ〜、早く言ってよ。オレびっくりしちゃったよ。カミ、ないの?」


相手が生き物で、しかも知っている奴なら明かりがなかろうとどうでもよくなる。


可哀相なことに、西浦のセカンドは胃腸が弱い。



かりかり、とドアをかく音がして、ああ、と小さく頼りない声が聞こえた。


水谷は辺りを見回した。さすがは整美委員だ。流しの上にも掃除具置場にもロールがない。




でも、可能性は残っている。



奥の個室に入ってホルダーの蓋を上げた。

まだ半分も使われていない紙がある。



「‥早く‥」


なるほど、この不気味な便所を使うわけだ。高校生とは言え、個室は勇気がいる。



(ひでえよな、田島)



隣でもそもそ音がする。


「あ、ごめん」
水谷はロールを外して、隣へ投げようとしたが腕を止めた。



横を見る。



洋式便器だ。





「早く‥」


笑いを堪えつつ蓋をした便器に足をかけて上がる。


いいじゃないか、投げたとこで外すかもしれないし。




ちゃんと上から渡してやろうじゃないか。

どうせ腰掛けてるんだから肝心な場所だって見えない。



驚くぞ?





仕切りに手をかけ、勢いよく覗き込んだ。


「ほーら、これでも使え‥」







手が、止まった。







足が奮え、便器の蓋が細かく鳴った。






手の震えも抑えられず、ロールが落ちた。






―中にいたのは、栄口ではなかったのだ。
 
 
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