よろず小説
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ハアなるほどね。
けれど利央はしきりに腕を回す。
「うれしいなあ。これ誕生日ホケンでしょ?こんなにみんなが優しいなんて思わなかったです!ありがとう、うれしい。慎吾さんありがとう!」
今日16歳。186センチ。
でも中身はまだお子様。
何のためらいもなく、照れもなく笑う後輩。
秋なのに、日差しに向かうひょろ長いひまわりみたいだ。
涼しい店内にコーヒーは助かる。六百円もすればさすがに美味い。
一口舌で回してから砂糖を入れようとすると、口にクリームつけた利央が「待って」と言った。
「結局砂糖を入れるのになんで今ブラックのまま飲んだんですか?苦いでしょ?」
身を乗り出してまじまじカップを見つめる。
「‥コーヒー、好きか」
首を思いきり振った。入浴後の犬みたいだ。
「兄貴の受け売り。大学で教わったんだと。『苦いのが嫌でもまずブラックのままでいくのがコーヒーに対する礼儀』だそうだ」
「へええ‥」
キャッチャーミットを構えるのに細い指。カップの取っ手に絡み付いた。
カップが宙に浮く。
「‥っ、わぁ、ダメだ。ダメっす、苦いや」
オレの手に収まるカップ。反対側のふちに生クリームとチョコレートシロップ。
「やっぱりオレは舌が子供なのかなあ‥あ、」
スプーンをくわえたとたん顔が光る。
「今クリーム食べたらすごいおいしくなった!なるほどー、すごいや」
うんうんと一人で頷くと、一番上のクリームをスプーンですくってこちらに突き出した。
「コーヒーのお返しです」
ほらほら、とスプーンが踊る。
「このまま食えと?」
「ほらっ!」
ふわりとした舌の感触、ひそやかな甘さ、とろけたあとに乳脂肪らしいこっくりした旨味がよぎる。
「女子かよ」
「甘いのきらいですか?だったらおあいこですよね。きっと今コーヒーをのんだらきっとすごく美味しいかもですよ」
睫毛が長い。
笑うと、またたくとわかる。
日にやけてもすぐに白くなる肌、その分赤く見える唇。ゆるり、誇らしく横に結ばれる。
コーヒーは、たしかに旨かった。