その他
□速弁とジャムパン
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「またジャムパンですかぃ?」
ピンクの髪を大きく揺らして上を向くと、クラスメートでライバルの憎たらしい笑みがあった。
ただでさえ、彼の方が背が高いのにしゃがみこんでいる今の状態では、彼が更に大きく見えた。
「それがどうしたアルか?」
彼女は苛立ち混じりに答えた。
だってそうだろう、栗色の髪をしたコイツの事だ、因縁をふっかけてきたに違いないのだから。
「速弁するから腹がもたねーんでさァ。
一番安いジャムパン買うぐらいが精一杯なお金しかもってねーくせによ。」
これは沖田の言うとおりだと彼女は感じた。
元々大食いな方とはいえ、食べるタイミングを考えれば我慢のしようもあるだろう。
食べるのは好きだが、誘惑に負けて食べてしまい、小遣いを消費するのは自分でもバカだと思うし、たまに嫌になる。
だが、他人にバカにされるのは嫌だ。
「育ち盛りの食欲なめんなヨ。
それに私はジャムパンが好きなだけアル!」
本当はカツサンドや焼きそばパンの方が食べ応えがあって好きだが、それは言えなかった。
速弁した挙げ句、またお腹が減って我慢しきれず、空腹を埋めるためになけなしのお金を使っている事をコイツはバカにしているのだからだ。
「それなら前にお前が購買で珍しく昼飯にパンを買ってた時、カツサンドやコロッケパン、焼きそばパンとかは買ってもジャムパンは買わなかったのはなんででさァ?」
ニヤニやと勝ち誇った笑みで沖田が神楽を見ながらそう言った。
「あの時は甘い物が食べたい気分じゃなかっただけアル!」
そう言い返しても、言い訳にしか聞こえないのは彼女も分かっている。
それでも、黙ってサド野郎の言う通りだと認めるのは神楽のプライドが許さなかった。
「はいはい、そういうことにしてやらァ。」
「なら最初から言うんじゃねーヨ!!」
食べかけだったパンの残りを口にいれ、立ち上がろうとする。
沖田を殴るためにだ。
しかし立ち上がろうと力を入れる寸前のところで沖田が何かを投げ渡してきた。
反射的に飛んできたそれを受け取る。
それはジャムパンより値段が高く、大好物のカツサンドだった。
「それやるから、落ち着きな。」
そう言うと彼女の横に沖田が座ってきた。
「でもそれじゃお前のお昼ご飯が減ってしまうネ……。」
ライバルの意外な行動に神楽は思うように言葉が出なかった。
「俺はいらねーんでさァ。
姉上が最近、病気が治った反動で食べ過ぎちまって少し太ったとかでダイエットしてるんでさァ。
で、それに付き合うつもりだったのをすっかり忘れて買っただけだから、それ。」
そう言うと、彼は持っていたファンタの缶を開け、缶のふちに口をつけ飲み始めた。
「お前、シスコンかヨ。
まあそう言う事なら仕方なく食べてやるネ!」
にっこりと笑顔を沖田に向け、カツサンドの袋をあける。
途中、沖田の方を見ると顔がほのかに赤く見えたが、彼女は気にしなかった。
そんなこんなで昼飯時は過ぎていった。
速弁とジャムパン
(本当は姉上に付き合ってってのは嘘で、お前が好きだからあげたなんて恥ずかしくて言える訳がねぇや。)