秘密の部屋

□ひととき
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時たまふらりとここ、吉原に訪れる男がいる。
この町を夜王の呪縛から解き放った男、坂田銀時。

来る理由なんて、暇だから顔を見にきたとか、しょうもない理由の男だ。

だが、そのしょうもない理由が心地よかった。

「なんじゃ、ぬしまた来たのか。」

口を開けば、素っ気ない言葉しか出てこないのだけれども。

「暇なんだよ、どうせ依頼はこねーし。
それにここに来たら日輪がお茶と茶菓子を出してくれるからな。
いい立ちより場所だ。」

そう言う銀時はだるげに後ろ頭を掻いている。

相変わらずだな、そう思うとなぜか安心した。


「生憎じゃが、今、日輪はおらん。
そしてわっちはぬしに茶も茶菓子も出す気はない。
残念だったな。
ていうかぬし、この町の太陽を何だと思っとるんじゃ。」

そんな、胸中とは裏腹な言葉をかける。

「おいおい、お客に茶を出さないのかよ、この子はァ……。
いやあくまでお茶や茶菓子はついでたけどねぇ?」

最初の方は普通だが、最後の方は少し高めに聞こえる。

まったく……ついでとは言いつつこの男は……。

「なんじゃ、その物言いは。
ぬしはわっちの父親か。

それと甘党もほどほどにしなんし。」


仕方なく奥の台所へと向かう。

「おいおい冗談じゃねーよ、こんな無愛想な娘もちたくねーから、俺ァ。」

背後から銀時の声が聞こえる。

さっきと同じくらいに聞こえると言うことは、声を大きくして言っているのだろう。

「わっちもじゃ、こんな天パーで死んだ魚の目の父親なぞ願い下げじゃ。」

お茶を入れ、戸棚から茶菓子を出し、お盆に乗せる。
それを運びながら、銀時へと返事をする。

「じゃあ、いーじゃねーか、どっちも願い下げで。」

「そうじゃな、ほれ、お茶じゃ。」

横に腰を下ろし、机にお盆を置いた。

「んだよ、結局淹れてくれんじゃねーか。」

銀時はそう言い、茶菓子をつまんでいる。

「ぬしがうるさいからな。」

自分も茶を飲み一息ついた。

「なんっつーか、うまいなこのお茶。」

そう言った銀時の方を見てみるが、明らかに茶菓子ばかりを食べている。

思わず笑った。

「そう言う割には茶菓子ばかりを食べているようじゃが?」

「笑うなよ。
お茶が美味くて飲むのがもったいねーんだよ。」

「日輪が選んだ茶葉じゃ、まずいはずがない。」

「いや、なんかいつもより美味いんだよ。」

なんでかわかんねーけど、
そう続けてヤツは茶を飲み干した。

「ぬしの気のせいじゃないのか?」

「いや気のせいじゃないな、絶対。
お前が淹れたからか?」

「なぜわっちが淹れたら日輪より美味くなるんじゃ、やっぱりぬしの気のせいじゃ。」

残り少ない茶菓子を口に入れる。
なかなか美味しい。

「うーん、美味いんだけどなぁ……、まいっか。
そろそろ帰るわ。」

銀時は立ち上がり、膝に散った茶菓子のかすやほこりを払う。

「そうか、またな。」

引き止めはしない、ヤツにはヤツの生きる場所があるのだから。

それにまた来てくれるだろう。

それで充分だ。


「ああ、またな。」



銀時の背中が見えなくなるまで見送った後、見回りに向かう、いつものように。





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