小説
□与えてくれたモノ
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カラカラと氷を回す音と店内を流れる音楽が二人を包み込む
「やっぱり俺は何もいらない」
イザークが言うよりも先に強く彼を見据える
「もう幸せだから」
あの大戦から両親や友をなくし、再び戦渦が世界を揺るがした
そこでも大事なモノが消えていって、いつしか俺の内部の何かが失われていった
けれどその失っていったものをくれたのは君だった
――だから
「欲しいものはないんだ」
何度目かなるため息が聞こえる
「全く、可愛い事言ってくれる」
ふと頬に彼の掌が触れると同時に唇にコーヒーの味がし、優しく触れるそれにうっとりと俺は酔いしれた
「イザーク、ここ店内だぞ」
「……」
気がつけば周りにいる客は俺達を好奇心の視線を向けていた
「さっさとこんな店出るぞ!!」