小説
□風に乗って
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さわりさわりと揺れる百合の花弁にアスランは愛おしそうに目を細めた
その石盤に刻まれた名の人物と同じ色彩の瞳を
母には必ず百合を、と毎回選ぶ
一度生前にプレゼントし、大層嬉しそうにしていたからだ
だから今でもずっと百合を手向けている
「今年も、貴女に」
しゃがみこみ、名を指先で辿る
すると少し埃が付いた
最期に見た笑顔は忘れられない
最期に交わした言葉も忘れられない
なのに、母と過ごした日常が霞かかったように朧気になって
「申し訳、ございません」
あの惨劇からナチュラルに仇を討つ事だけ考えて、アカデミーに入り、軍に入ったのに
その惨劇すら忘れそうになっている今の自分
この日だけに思い出される貴女の記憶
親不孝な息子になってしまった
「またか」
ふと石盤に影が差す
振り返ればいつも通りの軍服姿、そして珍しく軍で支給されている帽子を被っている
「レノア様も百合ばっかは飽きるぞ」
イザークが手にしていた真っ赤な薔薇を百合の隣に置いた
「この場には不釣り合いな色だぞ」
「ふん、今日は何の日か知らんのか」
イザークは膝を折り、自分で手向けた薔薇から一輪抜き出す