小説

□風に乗って
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そしてそれを俺の鼻先にかざした

「バレンタイン…本来なら愛を囁き合う、とディアッカから聞いたが?」

くっ…と笑い、「ほら」とそのまま薔薇を渡される

「ある国ではチョコレートを贈るそうだが、ある国は薔薇を贈る文化があるそうだ」

「だからくれるのか?」

「レノア様だけに渡すと貴様が拗ねるかと思って」

ふふん、と偉そうな態度のイザーク
多分、彼のおかげで悲しい過去を振り返る事が無くなったんだと思う
そんな事、口が裂けても言えないが

「で、貴様は?俺に何か無いのか」

「はぁ?いきなりそんな事言われたって無いに決まってるだろう」

俺が呆れたように言えば、わざとらしく溜め息ついて、イザークは俺が持っていた薔薇からぷちり、と一枚花弁を取った

「あ!何す…」

その花弁が俺の唇に押し当てられる

「紅を指したようだな」

文句を言うよりも早く、口角を上げたイザークの唇が花弁越しに重なる

ゆっくり離れる小さなぬくもり
支えが無くなった花弁はふわりと空に舞った

「今ので勘弁してやる」

「は、母上の目の前でっ…!!」

「だから薔薇越しにしただろ」

「そういう問題じゃない!」


母上、彼のおかげで日々が幸せです
貴女に捧げるはずだった愛情を今は彼が受け止めてくれています

一つだけ我が儘を聞いてくれますか?
…彼とのこの事は、父上には内緒でお願いします


end.
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