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□Kiss me! Darling
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『もー……何分待たせるのっ、』





遊園地に行きたい、

なんて言うからせっかく彼が日本に来るんだしディズニーランドでも…と、思った。
けれど、彼はもっと普通のベーシックなところがいい!と言うから富士急ハイランド?と聞いたけれど、富士急がウリにしてるのは絶叫アトラクション系。

…彼は乗れないじゃないか。



よくよく聞けば、ただ観覧車に乗って日本の景色をゆっくり眺めたい!と言うからこっちだって…叶えてやろうじゃないの。って気になって、みなとみらいの大きな大きな観覧車の前、なう。






私はもう2時間待たされている。



少しずつ周りは薄暗くなって、
風だって私がここに立ち始めた時間よりは明らかに冷ややかだ。
それにここを通る風は潮風なもんだから余計に寒いし、頬がピリピリしてくる。
鼻水なんかも垂れてくるけど、どこまで垂れてるか感覚ないし。

…それもこれも、トゥギのせいだ

















『知るか!あんなクソハラボジ!乗っちゃえ!』





2時間もこの観覧車の前で待っていれば係員のお姉さんだって、ちょっと…あの人乗るの?乗らないの?なんて目障りに思うはず。
それにこの前をウロウロして楽しんでる学生カップルが、さっきから通りかかるたびに私を指差しては、あの人まだいるよー!振られたんじゃないのー!!


…しっかり聞こえるんですけど。






乗ります!と、ずっと握ってクタクタになったチケットを半分もぎってもらう。

先でおじさんが案内してる観覧車の一つに乗り込むと、携帯を取り出した。






…電話もメールもない。









『久々の日本で大人気だからって調子にのって……。

……………ハラボジめ。』














観覧車が順を追って次々と、南の空へ向かい始める。



鳴らない…彼を知らせない携帯をただ握って、こんな不毛な恋愛の意味が揺らぎだした。












『の、のりますっ!!

それ、あけてください!』

─────────!!









観覧車が宙に飛び出す間際、ドタバタと私の観覧車が開けられて彼が乗り込んだ。

サングラスに白いパーカーのフードかぶって、黒いマフラーぐるぐる巻いて。

いかにも怪しい姿で。





『よくもまぁ、そんな格好で止められなかったね。』



嫌味たっぷりに私はトゥギを見る

アイドルだってなんだって、誤魔化されないんだから!…ってそんな意気込みもたっぷりで。



ははは、と笑ったトゥギは少しよろけながら私の隣に座った。

身体がやたら冷たい。

何時間も待った私が冷たいと感じるくらいにパーカーから指先から、隣り合って触れる膝から冷たさが伝わってきた。










『だって…おじさん、俺のこと知ってるから。』



一体どこから走ってきたのだろうか?トゥギはニヒニヒと笑いながらも肩で息をする。



『……すごい汗だよ、風邪ひいたんじゃないの?なんでこんな冷たいの?』



だんだん心配になってきて、私はこっちに寄りかかってくるトゥギの身体を温めようと抱き締めた。

おでこにも触るけれど、それほど熱くはないし、汗もない。






『俺が姫のこと、待ってたのをおじさん知ってるから入れてくれたの。』



─でも寒くなってきたし、だんだん人が増えてきたから、急いでコンビニに温かいものを買いに行ったんだけど、戻り道で迷子になっちゃって〜。

なんて、けたけた笑いながら説明するトゥギの話はところどころが効果音付きで、しかも大袈裟。






『俺が動かなければ、ホントはもっとずっと前に姫と会えたのにね。』



すまないねぇ、と茶化して謝るトゥギは昨日まで何万人のペンを相手に最高の仕事をしてきたヒト。

そんな彼が今、私一人のために待ちぼうけして、迷子になって、冒険して、やっと私のところに戻ってきてくれた。











『姫、』

『ん?』





────────chu,









わざとらしいリップ音を残して、トゥギのなま暖かい唇が触れた。



薄っぺらな唇なのに、私はこの唇が触れると何も言えなくなる。









『いつも待たせてばかりだから、たまには待ってみようと思ったんだ。』

『……うん。』





姫の気持ちがよく分かったよ、とトゥギはまたニヒニヒ笑った。



『待ったら、待ったぶんだけ恋しくなった。』








そうか、
それなら……
私はトゥギの気持ちがよく分かったよ。




いい子にはご褒美を。




可愛い可愛いトゥギには、

『トゥギ、』

『んー?』







甘い私から、
キスのご褒美を。



End...
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