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□猫のキモチ。
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─おーい、また預かってくれ。




なんて気軽にヒボムとベンシンを私に預け、飼い主は余裕で日本にしばしの出張へ…。
ペットホテルとか、最近は結構サービスいいとこもあるはずなのに、わざわざソウル市内を少し離れた私のところへ預けていく。



私は仕事の合間、少しパソコンから手を離してキッチンへ…
自分のぶんの昼食と、ヒボム・ベンシンのぶんの猫まんまを作り始める。




────チリン、

小さな鈴が鳴るのはベンシン。
ヒボムは窓際の日なたでまだ昼寝している。







ニャ─ォ、



細身の身体をすりすりと私の足元に寄せて、私が何をしてるかはすでにご存知の様子。





─お前に預けるとヒボムもベンシンも機嫌がいいからなぁ……。
またお前に預けてやる。



もちろん、迎えに来るときはちゃんと日本土産をつけてやるからな!と、ヒチョル様はいつものようにご機嫌で颯爽と去っていた。





─…またどうせ、忙しかったから忘れた!とか言って手ぶらなんだろうな。





『お前たちの主人は、お前たちには優しくてもねぇ……』



…私にはちっとも優しくないよ。

呟きながらも手は動く。
染み付いた下っ端根性といいますか…下僕体質といいますか…

つくづく損な性格だ。













もともと私がヒチョル様の何なのか、と聞かれたら単なる友達だと思う。

特にお互い共通の趣味があったわけでも、ノリが合うわけでも、仲良しなわけでもない。

ヒチョル様はずっと美人で、ちょっとくらいのワガママも、ちょっとくらいの奇行も許されてきたけれど、きっと私が同じことをすれば『頭がおかしい!』と言われるはずだ。

私はずっと地味で、友達にはお人好しだと言われ、静かなのを好む暗い性格だったから。













『─姫、来いよ。俺と次の授業サボろうぜ。』



忘れもしない、高校2年の春。

ひどい生理痛でお腹が痛くて前の授業の途中に保健室で休んだ私。
次の授業は出られそうだ…と、休憩時間の終わるギリギリで教室に戻ろうと階段をよろよろ上がっていくと…踊り場にヒチョル様がいた。



サボろう、なんて彼に言われて私は瞬時に彼と私の接点を探す。

…ない。
話したことがなかった。

けれど、彼は私の名前を呼んで返事を聞くわけでもなく腕を引いて歩く。

…たまたま、私がヒチョル様の前を通ったからだろうか?
…でもどうして?階段の踊り場なんかにいたら先生に見つかるのに。
……もしかして、この人って、

頭の中であるはずのない疑惑が浮かんでくる。



─私を待って………、た?





結局、
屋上の日陰でヒチョル様の横に寝かせてもらって、暑い!と言って彼が脱いだブレザーの上着を私が借りてお腹にかけて昼寝をした。

若い男女が2人っきりの場合にはありがちな、腕枕とか秘密のキスとか、もしくは愛の告白とか。
そんな甘いシチュエーションがあるわけじゃなかった。



あれから今までずっと、何がどうして彼に私を思い出させるのか…彼はトップアイドルになっても韓流スターと呼ばれても、私を変な芸能人仲間との会合に呼び付けるし、空港まで迎えに来させるときもあるし、こうして頻繁にヒボムとベンシンを預けていく。

…何の信頼を得ているのかは知らないが。











でも、
私もこうして面倒見ていると、懐いてくれるヒボムとベンシンが可愛い。



私がベッドやソファーに寝そべると必ず、その傍らにそっとやってきて丸くなって目を閉じる二匹。

ベンシンは私が猫まんまを作り始めると必ず足元にすり寄ってはウロウロする。

ヒボムは本を読んでると私と本の間に腰を落ち着けて、《さぁ、かまいなさい。》オーラを出す。



猫だけれど、
二匹の自己主張はハンパじゃなくて、まるで一人暮らしなのに誰かさんと同棲してる気分になる。

寂しいなんて思う暇もなくて、唯一そう感じるのはヒボムとベンシンを連れてヒチョル様が帰っていくとき。


















───────────








『…………………末期だわ。』









ニャ─ォ
ンニャ────





今日はヒボムとベンシンが帰っていく日。

ヒチョル様が、これから迎えに行く!とメールをくれてから1時間は過ぎてる。
妙にそわそわして、私がヒボムとベンシンを抱き締めてると二匹が声を揃えて鳴きだした。






『姫、お疲れ。』

『あ、……んーん。平気。』



ヒチョル様は私の部屋のキーナンバーも把握している。
だから勝手にあがってくるし、勝手に私のキッチンのものを食べたり飲んだりしていく。
宿舎から空港までの通り道を少し寄り道すれば私の家だからか、海外へ行く前に忘れ物があると私の家から断らずに持っていく。

…そして今日も勝手に上がってきたわけだ。



数日ぶりのヒチョル様はやっぱり真っ赤の服を着ていて、正直変な格好だと思うけれどでもやっぱりカッコいい。

地味なブレザー姿も似合ってたけど、変な格好をしててもカッコよく見えるんだから美人は得だ。






『またお前らは姫の膝にいるのな。』

『毎日だよ、』

『ほーぅ、我が物顔だな。』



お気に入りか?
コラ、ご主人様は俺だぞ?
と、二匹を抱き上げるヒチョル様は今日もふわりといい匂いをまとっている。



…私の一番安心する匂いだ。





『姫、明後日また連れてくるからよろしく。』

『え、またー??』








ニャ─ォ…
《いい加減、気付きなよ…》

ンニャ────、
《お互い好きなクセにね、》




End...
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