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□愛しのたんこま
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─姫、見てるか??










360度、パールサファイアブルーの波に囲まれ俺の一番幸せな空間を仰ぐ。



この大事な瞬間はどんな言葉も忘れてしまうし、どんな辛さや痛みもなくなってしまう。

ただこの胸を埋め尽くしていくエルフたちの愛情と笑顔と涙と、無数の青。

俺の一番幸せな空間。






これを姫にも見せたくて、今日は特別に彼女を呼んだんだ。

今までなかなか呼ぶことが出来なかったから、せめて今日…彼女が住む日本でのSuper Showを…。














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『雲(ウン)ちゃん!』

『んー?』





遊んでよぉぉ!と小さな部屋から俺の姿を見るなり飛び出してきていたのが、姫。

共働きの両親の代わりに俺の家でずっと面倒を見てきたからか、姫はうちの末っ子みたいなもので、俺もジョンジンも実の妹のように面倒見るのを楽しんでいた。

けれど女の子というのはマセてるから、こんなに?!と俺らも驚くほど姫はしっかり者で、俺がSMの練習生になって毎日は会えなくなっても姫は俺の身体の心配を…それはそれは実の母親のように気遣ってくれるほどだった。



姫は身体が生まれつき弱いほうで、ちょっと寒くなるとすぐに風邪をひいて…こじらせて…肺炎…を繰り返していた。

雪よりも真っ白い肌と大きな目が特徴的で髪の毛はずっと大事に伸ばしていたし、可愛い女の子…という条件はすべて備えてるような子だった。





─ジョンウン、姫ちゃんの家ね……日本に帰ったのよ。2ヶ月ほど前に。

姫の家が日本に帰ったと聞いたのは、Super Showのファーストライブ。
俺の両親とジョンジンが来てくれて、アンコールを終えた俺たちが家族と久々に記念撮影をしているときだった。

デビューして最初の頃は、姫が入院と退院を繰り返すたびに俺のもとに連絡が入り、俺は仕事やレッスンの合間を見ては病院へと見舞いに行った。
そうすると姫は小児病棟の窓ガラスに毎日へばりついていて、月に一度来るか来ないか…くらいの俺を見つけると、風邪をひいたら辛くなるのに構わず俺を出迎えに飛び出してくる。

『遊んでよぉぉ!』
『はいはい、分かったから。』

そうして抱き上げた姫の身体は10歳の女の子とは思えないほどに軽く、背もあまり伸びなかった。





日本に行くたびに姫のいる病院には必ず顔を出した。
どんなに日本でのスケジュールが詰まっていても、これだけは譲れない用事だったために急いで帰らなければならない日でも、搭乗する飛行機を1つ遅れさせてまで姫には会いに行った。

毎年、毎年、1つ歳をとる姫は少しずつ大人びた顔になっていくけれど、相変わらず身体は小さいままだった。



『俺、亀買ったの。』
『亀ぇ?!』

たんこまって言うんだ、と言えばさも可笑しそうに腹を抱えて笑い、亀なんて雲にぃらしいチョイスだね。とうなづく。

『お前もこまじゃんか。』
『ちびで悪かったわねぇ。』

結局それが言いたいんだ!いじわるーっ!と膨れっ面をして見せるけれど姫の頬は痩せすぎて一つも膨らまなかった。
下手くそなシュークリームの皮みたいに、少しぷくっとしただけですぐにしぼんでしまう。



『ウソ。俺、かなりたんこま可愛がってるもん。』
『じゃあたんこま、姫だと思って寂しくなったら話し掛けてね!』















────────────






─たんこま、綺麗だろ?






俺たちに向かって伸びるたくさんのペンたちの腕の隙間から、見知ったヒトの顔を見つめる。

そのヒトが手にしているものを、俺は黙って受け取った。
それだけは、ペンたちはみんな邪魔しないでいてくれた。











─俺が、お前に見せたかった景色だ…。





小さな写真たてを抱き締めて、俺は自分のパートを歌いだす。





今はもう存在しない…

小さな写真になった彼女を抱いたまま
















姫………、

君は今、
どうしてるの……?






End...
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